ツインクロス
「えっ?じゃあ、冬樹達がよく来てたこの先にある別荘っていうのが?」
「そう。俺んちの別荘って訳だ」
持っていた花束を手向けた後、力は偉そうに雅耶に自己紹介をしていた。

冬樹はというと、最初は知り合いとの久し振りの再会に心底驚いた様子を見せていたが、その男の正体を認識した途端、あからさまな程に引き気味な態度を見せていた。

(オレ、こいつ苦手だったんだよな…)

この男…神岡力は、父の仕事仲間で古くからの友人でもあるという神岡という人物の息子で、よく父に連れられて出掛けた先で、年が同じということもあり、何だかんだとセットにされて一緒に遊んでいた子どもだった。
特に、この先にある別荘に連れて来られることは何度もあり、その度に力も父親に必ずついて来ていたのだった。
今思えば、力の相手をさせる為に父は自分達を連れて行っていたのかも知れないと思える程だ。
だが、『夏樹』は力のことが本当に苦手だった。
それは、会いたくないと思い悩む程で…。
事故の当日、一人だけ例の別荘に出向かなかったのも、実はそれが理由だった。



あの日。
またその別荘に一緒に行くことを告げられた夏樹は、兄だけが空手の稽古を理由に行かなくて済むことになったのを聞いて心底悲しんでいた。

『ふゆちゃんがいないのに、アイツと…力と二人でいっしょにいなきゃいけないなんてイヤだよ。なつきも行きたくないっ』
子ども心に、父の仲の良い友人の息子である力の悪口を直接父に言うのは気が引けて、母に相談を持ちかけたのだが、母は笑ってそれを制止した。
『力くんも神岡さんに連れられて来ているのに、話し相手が誰もいなかったら可哀想でしょう?一緒に遊んであげてよ、なっちゃん。力くんはなっちゃんのことがすっごく大好きなんですって♪』
語尾を弾ませて、冷やかし半分で拒否されてしまったのだ。
(それがイヤなのにーー!!)
夏樹は泣きたくなった。
力が夏樹を好きなのは、自分でも良く知っていた。
いつもしつこい程に迫ってくるからだ。
妙にませている子どもだった力に、夏樹はタジタジで苦手意識しかなかったのだ。
だが、そんな夏樹の気持ちを良く理解していた兄の冬樹が、その日…見兼ねて助け舟を出してくれた。

『じゃあ、ボクが代わりになっちゃんになって行ってあげるよ』

そんな些細な夏樹のワガママがこんなことになるなんて、その時は思ってもみなかったけれど。


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