ツインクロス
(何…?いったい、どういうことだ…?)

車が去って行ったその道の向こうを呆然と眺めながら、冬樹は立ち尽くしていた。
「父さん達の…事故が、ただの…事故じゃない?…仕組まれていたって…?」

(あいつ…確かに、そう言ったよな?)



その衝撃に、わなわなと身体を震わせている冬樹の後ろ姿を、雅耶は何とも言えない表情で見詰めていた。
「…冬樹…」
「『仕組まれていた』って…どういうこと…?」
混乱した様子で、冬樹がこちらを振り返る。
「それって、『殺された』ってこと…か…?」
「………」
自分で言葉にしながらも、心底信じられないという表情を浮かべている。
(当たり前だ。そんな話、あってたまるかっ)
雅耶は、自らの拳を握り締めると言った。
「冬樹…。あいつがどういうつもりであんなことを言ったのかは分からない。でも、全部を真に受けるのも、俺はどうかと思う」
「…っ…でもっ…」
「あいつは、さっき『多分』…と言った。それを確証するものなんてきっと何処にも無いんだと思う」
「………」
大きな瞳を揺らして、暫く何か考えを巡らせていた冬樹だったが、気持ちを落ち着けたのか一度ゆっくりと頷くと「…そうだな…」と、小さく呟いた。




「滅多な事を言うものではありませんよ」
運転席の男が、バックミラー越しに力に話し掛けてくる。

「…なんだ。聞いてたのか?」

力は後部座席で腕を組むと、車窓から見える海を眺めながら言った。
「本当のことだろ」
「また、そんなことを言って…。お父様に叱られますよ?」
車は早い速度で坂道を下って行き、徐々に海が遠ざかってゆく。
力は名残惜しそうに、遠く離れて行く海を目を細めて眺めながら言った。
「ふん。『お父様』なんてガラじゃないんだよ。実際、親父は俺が何しようが気にしてもいないさ。俺がどんなに足掻いたって、今の親父の地位は簡単には揺るがないんだろうしな…」
「………」
運転手の男は、多々あるカーブを慣れたように車を走らせて行く。
「まぁ、今更あの事故のことを騒いだところで、証拠も何も残っていないし、どうにもならないさ」
力は鼻で笑うと、ミラー越しに男を見据える。

「今日、あいつらに会ったこと、親父には言うなよ」

運転手の男は、横目で力を振り返ると微笑んで言った。
「…私は、力様の味方ですよ。約束は守りましょう」

その言葉に、力は満足気に笑みを浮かべるのだった。


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