ツインクロス
冬樹達が無事に地元の駅へと到着したのは、既に日も暮れかけた夕食時だった。
駅の改札を出て歩きだした所で、丁度雅耶の携帯が鳴った。

「…ごめん、冬樹。今日親戚が来てて、今この近くで皆で食事してるみたいなんだ。これからそっちに向かわなくちゃいけなくなった」
雅耶は申し訳なさそうに、手を合わせてくる。
「何だ、全然。気にするなよ。逆に今日はあんな遠くまで付き合って貰って、ゴメン…じゃなかった、ありがとなっ」
冬樹は笑って礼を言うと「またなっ」…と、その場で雅耶と別れた。
雅耶は別れ際までずっと冬樹を気にしている様子だったが、家族に呼ばれていることもあり、すぐにその場から移動して行ったようだった。


明るく賑やかな駅前通りを抜けて静かな住宅街へと入ると、夜空に星が見えてくる。
(朝早めに出たのに、結構掛かったな…。電車を乗り継いで行くとあんなに遠いもんなんだな…)
車ではそこまでの距離感は感じなかったのだが、往復するだけでしっかり日帰り旅になってしまった。
(まぁ、山道は殆ど歩きだし。時間掛かる筈だよな…)
結局、帰りは麓まで下りてもバスは無く、駅まで約二時間半歩いた。
だが、雅耶と二人たわいもない話をしながら歩く時間は退屈しなかったし、お互い無言になることはあっても特に苦に思うようなことはないので、終始ゆったりとした時間が過ぎていった。

(こんな気持ちで帰って来られたのは、やっぱり雅耶のお陰だよな。今回、初めて花を手向けることが出来たし…。行って良かった…)

今迄は…今日という日を意識はしていても、両親と兄の『命日』と認めることすら出来ずにいたのだ。
今日のように、あの場へ足を運ぶことは勿論、祈ることすらせず…。
(…ある意味、オレは…何て親不孝なんだろうな…)
冬樹は夜空を見上げた。
夜の住宅街は静かで、各家々の庭先から夏の虫たちの声だけが周囲に響いていた。

「………」

冬樹はゆっくりと足を止めると、不意に向きを変えた。
今日は何だか真っ直ぐアパートに帰りたくない気分だった。
冬樹は自宅への道から外れると、野崎の家の方へと向かった。


人の気配のない、真っ暗な家の前に立つ。
今日は、ライトも何も持って来ていない。
だが、冬樹は迷うことなく鍵を取り出すと、その冷たい扉を開けた。
夜の『家』に入るのは初めてだったけれど、特別怖さはなかった。
< 192 / 302 >

この作品をシェア

pagetop