ツインクロス
とある場所の、とある一室。

いつもと変わらない街の煌めく夜景をバックに、その中年男は革製の大きな椅子に深く腰掛けていた。
そこに一人の男が報告にやって来た。
「…何だ?何か進展でもあったのか?もう下らない失敗の報告など聞きたくもないぞっ」
中年男は椅子を僅かに回転させ、身体を横向きに変えて足を組むと、報告に来た男を斜めから睨みつけた。
「はっ。いえ、実は…ご子息の、力様のことでご報告が…」
「…何?力がどうした?」
中年男は、その名前が出ると僅かに表情を緩ませた。
「はい。実は、あの例の少年の通う高校に力様が出入りしているという報告が入りまして…。一応、神岡様のお耳に入れておいた方が宜しいかと…」
「ん…?どういうことだ?休み明けから別の学校へ通いたいという話があって転校の承諾はしたが…。まさか、その転校先の高校があの野崎の息子の通ってる学校だったとでも言うのか?」
「はい。そのようです」
その言葉に、中年男は険しい表情で考えを巡らせた。
「…どういうつもりだ?偶然…というには、あまりにも…」

暫くその中年男…神岡は、腕を組んではブツブツと独り言を呟いていたが、次の指示を待っていた男が痺れを切らして口を開いた。

「…いかがいたしましょう?」
「ふん…。まぁ、あいつが何をする訳でもないだろうし問題ないだろう。こちら側も学校内で派手に動き回るようなことをするつもりはないしな。あいつが巻き込まれる危険性もない。…放っておけ」
「かしこまりました」

その男は深く一礼をして「失礼いたします」と挨拶をすると、その部屋から出て行った。

一人部屋に残された神岡は、ギシリ…と音を立てて椅子から立ち上がると、窓際から煌めく街の明かりを見下ろした。

「力め…。何を考えている…?」




所変わって、某高級マンションの一室。
その部屋の大きな窓からも、煌びやかな夜景が目下に広がっていた。
「力様、やはり彼には監視の目が付いていましたね」
力に食後のコーヒーを淹れながら、男は言った。
「やっぱりな。親父たちが冬樹を狙ってるってのは本当らしいな」
力は目の前に置かれたコーヒーに手を伸ばすと、その芳醇な香りを楽しむ。
「さぁ、どうしてやろうか。親父達よりも先に『鍵』を手に入れて出し抜いてやるのも面白いかもな」
そうして不敵な笑みを浮かべるのだった。


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