ツインクロス
危惧していたのとは裏腹に、その体育の授業は特別問題はなかった。
とは言っても、体育祭の競技の説明から始まり、リレーメンバーを決める為の100m走タイム録り。そして、その後すぐに暑い中での1500m走タイム録り、及びメンバー決め。そのどちらのメンバーにも入れなかった者には、腕立て伏せ50回&腹筋50回の罰ゲーム付きという、若干その内容はハードなものであったが。
冬樹は両方走り終わった後、乱れた息を整えながらぐったりと座り込んでいた。

(ダメだ…。流石に1500はキツイって…。男子に敵う訳ない…)

はぁはぁ…と苦しげに呼吸を繰り返しながら、男と女の体力の違いをその身に感じていた。それでも、クラス内で中の下辺りの順位には入っていたのだが。
とりあえず、100mの記録は割と早い方だったので、リレーのメンバー入りを果たし、魔の腕立て&腹筋は免れることができた。
腹筋はともかく、腕立ては50回も続けられる自信がない。

(リレー参加とかめんどくさいけど、腕立てよりはマシだったかも…)

横で腕立て&腹筋を汗だくでやらされている十数人の集団を横目で見ながら、冬樹は溜息を吐いた。
最初の方は、ニヤニヤとこちらを眺めている溝呂木の目が気にならない訳ではなかったが、後半は、もうそんなことを気にしている余裕すらなかった。

(特に何もなくてホッとしたけど…。あいつ、やっぱり鬼畜だ。何にしても、無事この授業が終わって良かった…)

出来ればもうこの教師には関わりたくない、としみじみ思う冬樹だった。




「なぁ、アンタ。そこで何してるんだ?」

授業終了後、皆が校舎へと戻っていく中、力はある植え込みの陰へと足を向けた。そこには、突然声を掛けられてギョッとしている生徒が一人。咄嗟に後ろ手に隠したのは、望遠レンズの付いたカメラだった。
「それってカメラだろ?隠し撮りしてたのか?…何を撮ってたんだ?」
力は、他の人には気付かれないように自分も植え込みの傍でしゃがみ込むと、質問に答えるまで逃がさないという態勢で聞いた。
「あ…あれー?良く気付いたねっ。キミ、なかなか鋭いな…」
慌てながらも、周囲に他の人がいないのを確認すると、その生徒は小声で人差し指を口元に当てた。
「でも…悪いんだけど、このことは秘密にして貰えないかな?(おおやけ)にするとマズイんだっ」
よく分からないが、力はとりあえず頷いておいた。
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