ツインクロス
ある朝、冬樹が学校へ向かう途中。

電車を降りた所で突然後ろから肩をトントン…と、叩かれて振り返った。
だが、そこにいたのは意外な人物で、冬樹は思いのほか驚きの表情を見せた。

「えっ?ちから…?どうしたんだ?お前…」
「おはよ、冬樹っ」
笑顔で挨拶の言葉を口にする力に、冬樹は我に返ると自分も挨拶を返す。
「電車で来るなんて珍しいな。…何かあったのか?」
お互い人の流れに沿いながら改札へと向かって歩き始める。
「ああ、いや。俺もこれから電車通学しようかと思ってな」
平然と笑う力に、以前乗り換えが多くて不便そうなことを言っていたことを思い出して、冬樹は首を傾げた。
「…学校から何か言われたりしたのか?」
「いや?ただ、まぁ…流石に車通学は目立つしな」
そう言ってさり気なく定期をポケットから取り出す力を見遣りながら、
(…そんなの今更だろ…?)
冬樹は思ったが、特に口には出さなかった。



(こういうのも、なかなか新鮮でいいじゃないか)

友人と何気ない話をしながら、学校へと向かう通学路。
そういうものが、初めてだった力は感慨深げに心の中で浸っていた。

(そして、その相手が冬樹ならば尚更(おつ)と言うものだ)

先日、思わぬことがきっかけで冬樹のブロマイド写真なるものの存在を知り、目にして実際手に入れてからというもの、自分の中で何かが変わって行くのを力は感じていた。
手に入れた冬樹の写真を自室の机の上に並べながら見ていて、まさか他人の男の写真をこんな風に自分が眺める日が来るなんて思ってもみなかったのだが。

(全く想定外だ。ある意味、世も末的な感じもするが…それも面白い。何にしても男子校、恐るべし…だ)

そう思いつつも、冬樹は自分にとって特別な位置づけにいるのだと力は考えていた。
その姿は、今は亡き愛する夏樹と生き写しなのだから。
そして、力はそれらの写真を眺めながら、次第にもっと色々な冬樹の表情を見てみたいと思うようになっていった。
あの溝呂木という教師のように、笑顔だけでは物足りないのだ。
困らせるのも良い。少しぐらいなら怒らせるのも良いだろう。
泣き顔なんかもきっと綺麗に違いない。

他の者が聞いたらきっと引くであろう、そんな考えを胸に。
力は、隣を歩く冬樹の横顔をそっと、心の中でほくそ笑みながら眺めるのだった。


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