ツインクロス
力は毎日が楽しくて仕方がなかった。

(この学校に転入してきて正解だったな…)
4時限目が終わり、ワイワイと教室内が賑わう中、力は教科書やノートを机に仕舞いながら思った。

学校生活そのものは、前の学校と大した変わりはない。
ただ、以前の学校は私立の中高一貫校で、中学時代からの変わり映えのないクラスメイト達に囲まれ、高校生活と言っても新鮮さは皆無だった。それに、まるで勉強一筋だというような真面目な生徒が多い中で、友人との楽しい時間も何もないに等しかったのだ。
その学校は成蘭とは違い共学校ではあったが、女子にも夏樹を超えるような惹かれる子はおらず、悲しい現実を思い知らされる毎日だった。
(ヘタな女子なんかより、冬樹の方がよっぽど目の保養になる)
冬樹を観察していることが、この所の力にとって一番の楽しみになりつつあった。
冬樹は相変わらず自分にあまり笑顔を向けないが、傍でその微妙に揺れ動く感情を読み取るのが何よりも楽しい。
冬樹の傍にいることが、本来の目的とは少しずつ違ってきていることに自分で気付きつつも、特に深くは考えず、力は学校生活を楽しんでいた。

「あれ?そういえば、冬樹は?」

気付いたら、冬樹が教室から居なくなっていた。
近くに居た雅耶に尋ねると、
「ああ、冬樹なら保健室寄ってから食堂へ向かうって。先に行っててくれって」
「何だ?冬樹、何処か具合でも悪いのか?」
「いや、先生に少し用があるだけだって言ってたよ」
「ふーん…」
冬樹がいないとつまらないな…と内心で思いながらも。
力は皆と一緒に食堂へ向かう為、教室を後にした。



いつものように仲間達と食堂へ向かっている中、雅耶はふと考えていた。
(そういえば…。今まで気が付かなかったけど、冬樹が清香姉に色々相談しているのって、もしかしたら…。清香姉は冬樹が女の子だってことを知っているんじゃないのか?)
そう考えれば、色々と辻褄(つじつま)が合うような気がした。
身体測定等も偶然休んでいただけだと思っていたが、個別で受けているのも今なら頷ける。
(皆と一緒に受けられる訳、ないよな…)
よくよく考えたら、今までよくバレずに男としてやって来れたなと思う。
夏樹の身の上を考えると、清香が何らかの形で秘密を知り、協力者として動いてくれているのなら、何より心強いものになると雅耶は思った。
(今度、清香姉にさり気なく聞いてみるかな…)
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