ツインクロス
冬樹は、遠く浮かぶ入道雲をフェンス越しに眺めながら小さく溜息を吐いた。

(何をムキになってんだか…。馬鹿だな…)
今の自分は夏樹じゃない。
それに、あんな過去の悪戯(いたずら)なんか忘れてしまえばいいだけなのに。まるで弁解しているかのような自分の言葉に、後から恥ずかしさが込み上げてくる。
(でも、雅耶達の前であんな話をわざわざする必要なんてないのに。力は何を考えてるんだ…)
そのデリカシーのなさには、正直呆れてしまう。
でも…。
(出来れば雅耶には…知られたくなかった、な…)

その時…。

数人の気配を突然背後に感じて、冬樹はハッとした。
思わず自らの考えに没頭していたのだろうか。
気が付けば、自分のすぐ後ろに5人の上級生達が立ち並んでいた。
「よぉ。何してんの?こんな所で」
「何だか一人で寂しそうじゃん」
上級生達は、フェンス際に冬樹を追い詰めるように取り囲んだ。
(…さっき、向こうに溜まってた連中か。油断したな…)
皆見知らぬ者ばかりだが、何故だか穏やかな雰囲気ではない感じを受ける。
冬樹は警戒しながらも、「…何か用…ですか?」と控えめに聞いた。




力は冬樹を探していた。
(確か上へ向かったと思ったんだけど…)
階段を昇りながら周囲を見渡す。
この先は、屋上しかない。
他学年の教室へ向かう筈もないことから、後は屋上を覗いてみて、そこにも居なかったら教室へ戻ってみようと思っていた。
初めて来る屋上の扉を、力はそっと開ける。
すると…。
少し先で、生徒が数人集まって何か揉めているようだった。
割と背の高い大柄な集団で、雰囲気だけで皆が上級生だと分かる。
だが、その中心にいるのは。
「…冬樹?」



「アンタ、一年の野崎だろ?」
「やっぱ、写真で見るより断然可愛いなっ」
「顔なんか超小せぇじゃん」
「ホント男にしとくの勿体ねェなー」
「俺、すっげぇ好みかも」
その上級生達は、冬樹を取り囲みながら口々に好き勝手なことを言っている。
その視線は、何処か品性に欠けるものであった。
「………」
嫌な雰囲気に若干身の危険を感じて、冬樹がどう出ようか考えていると、その内の一番大柄な生徒が冬樹の小さな顎を掴んで上向かせた。

「俺達と遊ばねェか?…少し付き合えよ」
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