ツインクロス
「テメェ、生意気なんだよっ!」
倒れて座り込んでいる力の腹に、一人の男が蹴りを入れる。
「うぐ…っ」
「力っ!」
冬樹は両腕を掴まれたまま、身を乗り出すように声を上げた。
だが、痛みに(うずくま)る力を見て、男達は小馬鹿にしたように笑っている。その内、もう一人の男も調子に乗ると、まるでボールを蹴るかのように素早く力を蹴り上げた。

もう、我慢の限界だった。

「……いい加減にしろ…」
冬樹が小さく呟く。

「あぁ?何か言ったか?」
右腕を押さえ込んでいる男が、俯いている冬樹の言葉に耳を傾けたその時だった。
冬樹は身体を(ひね)ると、右足で思いっ切りその男の足元を後ろから前へと蹴り上げた。油断していた男は、不意打ちを食らって足元をすくわれ、尻餅をつくように後ろへとひっくり返る。
その場にいた皆が何が起きたのかも分からず、驚き(ひる)んだその瞬間、冬樹は瞬時に身体を回転させ、もう片方の腕を掴んでいる男に向き合い、解かれた右腕でその男の胸ぐらを掴むと、勢いよく背負い投げた。

バターーンッ!!

床面に仰向けに投げ出されて放心する男と。
それを辛うじて避けつつも、驚き固まっている男達。
そして、力。
誰もが、目を見張って冬樹を見詰めていた。

「…アンタ達が先に手を出したんだ。…これは、正当防衛だからな…」



(…呆れたな…)

力は座り込んだまま、その一部始終を呆然と見ていた。
それは、本当にあっという間の出来事だった。
冬樹が軽い身のこなしで上級生達をやっつけていく様子。その姿は、本当に舞うように綺麗で、暴力的なものを一切感じさせない不思議な光景だった。結果、男達は逃げるように屋上から去って行き、そこには冬樹と力の二人だけが残されていた。

(コイツ…本当に凄ぇ…)

「…大丈夫か?力…」
気が付くと冬樹が傍まで来ていて、こちらに手を差し伸べている。
その姿は夏樹の面影を残した、まるで少女の様なのに。
力は「すまない…」と素直に礼を言うと、その手を取った。
冬樹はその腕を引き上げ、立ち上がらせてくれる。
「お前…強いんだな…」
力がそう素直に述べると、冬樹は照れ隠しなのか、バツの悪そうな顔をした。
そんな様子に、思わず笑みがこぼれた。

この男は、何故か自分の心を捕らえて離さない。
(参ったよ…。コイツには敵わない…。俺の完敗だ…)
力は心の中でそう呟くと、自分の中で決意を固めた。

(…決めた。俺は冬樹側につく。コイツに全面的に協力してやる)
それが例え、自分の父親を敵に回すことになっても。

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