ツインクロス
ドラッグ&トラップ
「…力様。お帰りなさいませ」
別荘の母屋へ戻ると、運転手の男がすぐに入口で力を出迎えた。

視線でこちらを伺ってくる男に、力は忌々しげに目を逸らすと、
「…冬樹は資料倉庫に置いて来た」
そう言い放ち、つかつかと広いリビングに入って行くと、大きなソファにドッカリと腰掛けた。
「何をイラついているのですか?此処まで来て、まだ乗り気ではないなどとおっしゃる訳ではありませんよね?」
うやうやしく聞いて来るその男の態度が、今程煩わしく思った事はない。
「乗り気じゃないのなんて当然だろうっ!こんな騙すような真似、誰だって気分悪いに決まっているっ!」
力は声を荒げると、目の前のローテーブルに拳をドンッ…と打ち付けた。
「…何故です?彼に近づいた当初の目的を忘れた訳ではないでしょう?今こそ実行する時なのではないですか?…貴方はお父様を見返したいのでしょう?」
語尾の言葉に鋭さを含めて男が言った。
「………」
「強引な手が嫌だというなら、彼を説得なさいませ。彼だって真実を知りたい気持ちがあったからこそ、此処までついて来たのでしょう?そこに全てが隠されているのですから、協力を仰ぐべきです」
口調は丁寧だが、どこか冷たく言い放つ男に。
力は無言で睨み返すのだった。




資料倉庫。
冬樹は黙々と資料に目を通していた。

専門的な書物に関しては、どれを見てみても当然のことだが難しく、理解出来ない物ばかりだったので、研究日誌のような物だけをひたすら読み漁っていた。かなり昔の物しか残されていないようだったが、開発を始めた当初のことは詳しく書かれていて、父達が何を目標に開発を進めていたのかを理解することが出来た。

(やっぱり…。力のお母さんは、随分前から心臓を患っていたんだな…)

力の母も二人と同じ大学の薬学部に所属していた後輩だったようで、力の両親が結婚をする前から父とも顔見知りだったようだ。病に苦しんでいる者が身近にいることで、余計に新薬開発に向けて二人は意気込んで研究を進めてきたことが見て取れた。

(会社に入社してからも、都合の付くときは此処に来て研究を重ねていたなんて…。オレ、父さんのこと…全然知らなかった…)

ちっぽけな理由で此処に来ることが嫌だと駄々をこねていた自分。

(でも、お父さんは…。こんな願いや希望を胸に秘めて…開発に力を注いでいたんだ…)

日誌を見詰める冬樹の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
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