ツインクロス
知らなかった。力がそんな想いを抱えていたなんて。

今の話、全てを信じる訳じゃない。
実際…データの解除が目当てで誘ってきたのは一目瞭然だし、どこかハメられた感はある。
もしかしたら、オレを説得する為の演技なのかも…とさえ思える。
でも、父親への気持ちは以前雅耶と屋上で話した時にも聞いているし、何より母親を失った傷が深いということだけは、本当だと分かった。
(それは、オレも同じだから…)

だが、どちらにしても、オレにはどうすることも出来ない。
オレだって父さんのことは知りたい。
狙われているデータが、いったい何なのかも。

(だけど、その認証は…。ふゆちゃんの手でなきゃ反応しないんだ…)


目の前で深々と頭を下げている力に。
「…ごめん…力…。オレには解除出来ない…」
冬樹は小さく呟いた。
その言葉に、力は驚いたように顔を上げる。
「何故だっ?お前だって知りたいんだろっ?このデータを開けば全てを知ることが出来るんだぞっ?」
力は、冬樹に詰め寄った。

「無理だよ…。オレには無理、なんだ…」

視線を逸らして答える冬樹に、力は最初呆然としていたが、頑なに拒み続ける様子に次第に声を大きく荒くしていった。だが…。

「…何を言われても、どんなに罵られようとも…オレにはそれを解除することは出来ない」

冬樹がキッパリと言い切った、その時だった。



「おやおや、交渉決裂…してしまったようですね」


突然扉が開かれ、声が掛かると二人は驚いてそちらに注目した。
そこに立っていたのは不敵な笑みを浮かべた運転手の男だった。

「……っ?」
「は…萩原…?」

突然の乱入者に冬樹は瞬時に警戒の色を見せ、力は予想外の出来事に、ただ茫然と驚き固まっていた。
だが、
「やはり、力様はまだまだ甘い…」
そう言って、主人である筈の自分を嘲笑するような素振りを見せる運転手の男・萩原(はぎわら)に、堪らず声を上げた。
「お前っ…何しに来たっ。勝手な行動は慎めっ」
だが、萩原はそんな力の言葉には耳を貸さずに、ツカツカと二人に歩み寄って来る。
「こんなものは…。無理矢理、奪ってしまえばいいんですよっ」
そう言うと、有無を言わさず冬樹の右手首をガッシリと掴んだ。
「……つッ!」


本来なら、こんな簡単に捕らえられるようなことはしない。
だが…。

(な…に…?)

冬樹は突然、くらり…と眩暈がして、一瞬反応するのが遅れてしまったのだ。
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