ツインクロス
だが、萩原はディスプレイに表示された『エラー』の文字に目を丸くした。

「何故だっ?上手く読み込めなかったのかっ?」
そう言うと、もう一度冬樹の右掌を認証装置に掛けた。
だが、エラーが出る事に変わりはない。
「…そうかっ、左手なんだなっ?」
再び、必死に冬樹の左掌を読み込む為に押さえ付けている萩原に。
冬樹は、そっと目を閉じた。

(いくらやったって開くワケない…。オレは冬樹じゃないんだから…)

結局、左右共に何度やってもエラーが出るばかりで、そのデータファイルが開かれることはなかった。

「何故だ…。何故開かない…?確かに野崎冬樹の掌の静脈認証で開く筈なのに、どうして…」
動揺を隠せないでいる萩原は、ディスプレイを睨みつけながら爪を噛んで何やらブツブツ呟いていたが、既に抵抗も見せず静かに俯いている冬樹を見下ろすと掴み掛った。
「お前っ何か知ってるんだろうっ?どうしてデータは開かないんだっ?他に何か秘密でもあるのかっ?」
その細い身体を強く揺さぶると、冬樹がゆっくりと視線を上げた。
「…オレは何も知らない。…言っただろ?『オレ』には…それを解除することは出来ないって…」

だが、その言葉の意味を萩原が読み取れる筈もなく。
「くそっ、役立たずめっ!」
そう言うと、冬樹を床に突き倒した。

「……くっ…!」

蹲っている力から少し離れた場所に、冬樹も倒れ込む。
床に身体を打ち付ける痛みに小さく呻くも、冬樹はいい気味だと思っていた。
(お父さんの大切なデータをお前なんかに渡してたまるか。どうやったって開ける筈がないんだ…。散々悩み苦しめばいい…)



痺れに苦しみながらも様子を伺っていた力は、何処か違和感を感じていた。

『オレには無理なんだ』
『オレにはそれを解除することは出来ない』

そう、頑なに言い続けていた冬樹。
(もしかして、冬樹は最初から分かっていたのか?自分ではファイルを開けないことを…。でも、この情報は確かな筈だ。野崎のおじさんは、長男の冬樹に鍵を託した、と…。でも、何だろう…何かが引っ掛かる…)
そう思っていた所で、イラついた萩原が冬樹を突き倒すのが見えた。
視線の先、力と少し離れた場所に冬樹が倒れ込んでくる。
だが、倒れ込んだ冬樹が不意にクスッ…と小さく笑うのが見えた。

(冬樹…?やはり、お前は何か知っているんだな…)
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