ツインクロス
(だ…れ…?)

倒れ込む冬樹を屈んで胸で抱き止めると、その人物はすぐさま立ち上がり、荷物を背負うように冬樹の身体を軽々と肩に担ぎ上げた。
痺れで力も入らず、半ば朦朧としている冬樹を抱き上げるには、確かに効率の良い抱え方ではあるが、その為冬樹はその人物の背で逆さにぶら下がっている状態だった。
そんな体勢でいる為、当然のことながら相手の顔を確認する事が出来ない。でも、その広い背を見る限りでは、しっかり大人な感じの逞しい体つきをしている。

(助けてくれた…ってことは、悪い人じゃ…ないのかな…)

その人物の歩みに合わせて、その背で揺られながら冬樹は思った。
敵であれ味方であれ、今の自分には抵抗する力さえないけれど。
僅かに顔を動かして逆さに流れてゆく景色を見てみれば、別荘の母屋の方へ向かってゆっくり歩いているようだった。

「あなたは…だ、れ…?」

冬樹は朦朧としながらも、辛うじて小さく呟いた。
覇気のない小さな声だったが、その人物はそれを聞き取ったようで、明るく返答してきた。
「安心しなよ、俺は敵じゃない。俺は、ある人物にキミを助けて欲しいと頼まれたんだよ」
「たの…まれた…?」
その声にはどこか聞き覚えがあった。

知らない人だけれど、前に一度聞いたことがある声…。

「その…声…。警備員、の…?」
以前、大倉に捕まった時に助けてくれた警備員の男の声に似ている気がする。
あの時も視界を遮られていた為、声だけが印象に残っていたのだ。
すると、
「おっ鋭いな。よく分かったな」
その人物は、明るく冬樹の言葉をあっさりと肯定した。

(あの時の警備員さんなら…安…心…かな…)

途端に、冬樹の中では安心感が膨らんでくる。

本当は、聞きたいことが沢山あった。
貴方達はいったい何者なのか?
何を目的に動いているのか?
そして…。

『あの時一緒にいた、もう一人は誰?』
『今日、オレのことを助けるように頼んだという、その人物の名は…?』

けれど、その言葉を発することは叶わず、冬樹はそのまま意識を失ってしまった。

「ふゆ…ちゃ…ん…」



「………?…気を失っちゃったのか?」
男は意識をなくした冬樹に気付くと、その最後の呟きにフッ…と小さく笑みを零した。

(しっかり、この子には分かってるみたいだぞ。良かったな…『お兄ちゃん』)


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