ツインクロス
母親が部屋から出て行った後、雅耶はベッドの側まで寄ると、眠っている冬樹をそっと見下ろした。
冬樹は静かな寝息を立てている。
だが、やはり普段よりも若干顔色が悪い気がした。
「………」

(まったく、何でこう…お前の周囲は物騒なことだらけなんだろうな…)

思わず溜息が出てしまう。
学校へ行けば、上級生や変な先生には絡まれ…。
親父さんのデータに関しては、下手すれば命に係わる程の危険な目に何度も遭っているのだから。

(確か…薬を盛られたって言ってたよな…)

雅耶は、未だ目を覚ましそうもない冬樹をじっ…と見詰めた。
先程ベッドへ寝かせた時に少し確認をしたが、怪我などの外傷がないのは不幸中の幸いだったかも知れない。
こっそり薬を仕込まれたのか、無理やり飲まされたのかは定かではないが、何にしても特に争そうようなことなく、苦しい思いをしていなければ良い、と思った。

(でも、そんな怪しい薬…実際、大丈夫なんだろうか?)

副作用とか、身体への負担とか…。市販の薬でさえ色々あるのだから、何らかの症状が出る可能性もなくはないだろう。
それに、さっきの男がどういう状況で冬樹を助けるに至ったかは分からないが、違った危険に巻き込まれる可能性だって今回は十分にあった筈だ。
あの男が何者かは分からないが、もし彼に助けられていなかったら、今頃冬樹の消息は絶たれていたかも知れない。
考えれば考える程、怖い…と思った。

「気を付けろって…言っただろ?」

雅耶は、目を細めて小さく呟くと。
背を屈めて、目元に掛かっている冬樹の髪にそっと手を伸ばすと、それを優しく除けた。
そのサラサラとした髪の感触と、冬樹の僅かな吐息が手を(かす)めてゆき、雅耶は思いのほかドキリ…とする。

「………」

そこで唐突に、目の前で夏樹が眠っているこの現状を雅耶は改めて意識してしまった。
自分の部屋の、自分のベッドの上で。
今、静かに眠っている、その愛しい存在を。

雅耶は、自分の鼓動が少しずつ早くなっていくのを頭の隅で感じていた。
思わずその吐息に誘われるように、その手を今度は白い頬へとそっと伸ばす。
恐る恐る、指の背で優しく触れると。
その頬は、見た目通り肌理(きめ)が細かくすべらかで、そして温かかった。

その温かさに夏樹の無事を改めて感じ、雅耶はホッとするのだった。
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