ツインクロス
それから、約二時間程経過した頃。
『冬樹』は、うっすらと目を開けた。

(あ…れ…?オレ…、どうしたんだっけ?…ここは…?)

見慣れぬ天井が目に入る。
暫くぼーっ…と視線を彷徨わせていたが、徐々に色々思い出してきた。
(…そうだ。オレ、力の別荘で…)
萩原に無理やり連れて行かれる所を、あの…警備員の人が助けてくれたんだ。
そこまで思い出した所で、その後の記憶はないことに気付く。
(オレ…もしかして、眠ってた??)
冬樹は、急激に不安になった。
(…ここは、いったい何処なんだろう?…あの人は?)
思わず焦って、起き上がって周囲を見渡そうと試みるが、それは叶わなかった。

身体が重く、酷く怠い。
首さえ思うように動かせない。

(まだ、あの薬が効いてるのか…?)

部屋の中は薄暗かった。
だが、見る限りでは、ごく普通の住宅のようだった。
人の気配はない。
既に夕暮れ時なのか、窓から差し込んでいるオレンジ色の陽が天井に薄い線を描いている。
そのことから、結構な時間眠っていたことを知る。
だが…。

(…どうしよう。いったい、ここは…)

本気で焦り掛けた時、ドアの向こうに人の動く気配がして、不意に扉が開いた。
「……っ…」
瞬時に警戒をするも、そこに立っていたのは…。


「…まさ、や…?」


冬樹は呆然と、そこにいる幼馴染みを見詰めた。

「良かった…。やっと、目が覚めたんだな」
雅耶はホッ…とした表情を見せると、部屋の電気を点けた。
急な眩しさに冬樹が目を細めていると、「…眩しいか?ごめんな…」そう言いながらも、雅耶は勝手知ったる様子で既に薄暗い窓辺のカーテンを閉めている。
初めは、何故雅耶がここに…?という疑問が、冬樹の頭の中をぐるぐると回っていたが、その自然な様子から此処が雅耶の部屋なのだということに気付く。
よくよく考えてみれば、以前に何度も来たことがある、見覚えのある部屋だった。家具などが、小さな子どもの頃の物とは随分と変わっていて、雰囲気が違い過ぎていて分からなかった。

(でも、それなら尚更…。何で…オレは雅耶の家にいるんだろう…?)

雅耶の動きを目で追いながらも、未だに呆然と横になったままでいる冬樹に。
雅耶はそっと近付いて、声を掛けた。
「冬樹…?大丈夫か…?起き上がれるか?」
すると、冬樹は不安げに瞳を揺らした。
「雅耶…。ごめん、オレ…。今の状況がよく、掴めてなくて…」

戸惑い、迷うように見上げてくる冬樹に雅耶は小さく頷くと、冬樹がここへ連れて来られた時の状況を簡単に説明した。

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