ツインクロス
すると、冬樹は…。

「そう、だったんだ…。ごめん。…すっかり迷惑掛けた…」
申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「馬鹿、謝るなよ。謝らなくていいから、何があったのか全部話してくれないか?」
雅耶は真っ直ぐに冬樹を見下ろして言った。
「…うん。でも、その前に…ごめん、雅耶…。オレ、薬で身体が痺れて上手く起き上がれなくて…。その…」

「……え?」


起こすのを手伝って欲しい…というのは、何だか気が引けた。
でも、雅耶の話を聞いている内に、今自分が雅耶の部屋の、雅耶のベッドに寝ているこの状況に今更ながらに気が付いてしまって。
意識してしまったら、堪らなく恥ずかしくなった。

雅耶の匂いに包まれている、自分に。

(…ど、どうしよう…)

変な動悸までしてくる始末だ。
今まで平然と横になっていたのが、不思議な位だった。
だが、雅耶は別のことが気になったようだ。
「薬で痺れてって…大丈夫なのか?無理しないで、まだ横になってろよ」
それが、雅耶なりの気遣いや優しさだということは分かっているが、自分的にこれ以上耐えられそうになかった。

「あ…いや。大丈夫っ…」

それならば意地でも自分で起き上がろうと、言うことを利かない身体を無理矢理に動かすと、今度は何とか上半身を起こす事に成功する。
だが…。
「あっ…」
突然、クラリ…と眩暈がして、身体の力が抜けた。

「…っ!あぶないっ!」

バランスを崩して、ベッド横へ落ちそうになった冬樹の身体を雅耶がすかさず屈んで受け止めた。

「……っ…」

眩暈をやり過ごし、咄嗟につぶっていた目をゆっくりと開くと。
「…大丈夫か?」
すぐ近くに雅耶の顔があり、自分を心配げに覗き込んでいた。
それに、自分はその広い胸に頭を預け、しっかりとその力強い腕の中に抱かれていて。

「~~~っ!!」

内心で冬樹は、飛び上がる程に動揺していた。
実際には、それがあまり表情には出ておらず、大きく瞳を見開いて驚いている程度だったのだが。
そんな冬樹をじっと見詰めていた雅耶は、わざとらしく大きな溜息を吐いた。
「だから、無理するなって言ってるのに…」
そう、呆れるように言われて。
「ご…ごめん…」
冬樹は、ただ謝ることしか出来なかった。

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