ツインクロス
雅耶に嫌われるのが、こんなにも…怖い…。
いつから自分は、こんなに臆病になってしまったのだろう?

その口から『もう、限界』だと…。
『もう、お前には付き合ってられない』と…そう言われてしまったら…。
そう考えただけで、こんなにも怯えている自分がいることに、自分自身で何処か他人事のように驚いていた。

何処かで、もう一人の自分の声が囁いている。

『でも、愛想尽かされて当然なことを、お前自身がしてるだろう?自分は散々、嘘で塗り固めているくせに…』

本当に、その通りだと思う。
それに…。
心配して気にかけてくれてるのを解っていながら、自分はその言葉に耳を傾けもせず、思うままに突っ走って…。
そうして、結局迷惑ばかり掛けて振り回しているだけだ。

(そんな勝手なヤツ、見限られて当然だよな…)

素直に甘えることも出来ない。

(…だって、甘え方なんて知らない…)

雅耶を本当に信じているのなら、全てを伝える事だって出来る筈だ。

(でも、怖いんだ…)


今まで偽って来たことを責められたらと思うと、心が苦しくて。
これまでの関係が崩れて、全て失ってしまうようなことになったら、きっと今の自分は耐えられない。
それに、雅耶の前で一度でも夏樹に戻ってしまったら、もう『冬樹』には戻れなくなってしまいそうで…。
そうして、ふゆちゃんの戻って来れる場所を失ってしまうのが、何よりも怖くてたまらないのだ。

(でも、オレ…やっぱり、雅耶には嫌われたくない…)

心の中の、身勝手な想いが(まさ)って…。
そんな自分に自己嫌悪を抱きつつも、沢山の複雑な気持ちがないまぜになって、感情を抑えることが出来なくなっていた。

抑えきれなくなった想いは…。
涙の雫となって冬樹の頬を伝い落ちていった。



腕の中の冬樹が突然泣き出して、驚いたのは雅耶だった。

「馬鹿。何で泣くんだ…」
「…ごめ…まさ、や…」

涙に濡れた瞳で、こちらを見詰めてくる冬樹に。
雅耶は、最初は戸惑いの表情を見せていたが、困ったように微笑むと。

「まったく、お前はホントに…。そういうトコ、変わってないよな。何を言っても聞かない無鉄砲で、そのくせ泣き虫で…。でも…」

雅耶は、冬樹の身体を支えていない方の手をそっと伸ばすと、零れ落ちる目元の涙をそっ…と拭った。


「…そういう『夏樹』だからこそ…俺は放って置けないんだけどな…」


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