ツインクロス
「夏樹…お前は、自分が女であることをもっと自覚した方が良い…」
「…え…?」

思ってもみなかった雅耶の指摘に、夏樹は目を丸くした。
雅耶は窓際に立ったまま、こちらを振り返ると続けた。
「確かにお前は、そこらの男よりは腕が立つし、強いよ。学校でも…お前がどんなに可愛くて隠れたファンが多かろうが、女と疑って見てる奴は今いないだろう。それ位、お前はしっかり冬樹を演じられてる。でも、それでもお前は、やっぱり女の子なんだ…。それだけで、別の危険が(ともなう)うことを忘れちゃ駄目だ」
「別の…危険…」
雅耶の言葉に真面目に耳を傾けながらも。

(『隠れたファン』…?って、何のことだろう…?)

素朴な疑問が頭に浮かぶ。
でも、今それを問う雰囲気でもなく、なんとなくスルーするしかなかった。

「お前の強さは、その身の軽さを生かした瞬発的なものだ。力で押されたら、流石に男には敵わないだろう?押さえ込まれたり、自由を奪われたら到底太刀打ち出来ないんだ」
「うん…。それは、十分解ってる…つもりだけど…」

ここまで聞いても、雅耶の言わんとするところが理解出来ず、夏樹は首を傾げた。



一方の雅耶は内心で、じれったさを感じていた。

(何て言えば、お前に伝わるんだろう…)
小さな小学二年生の頃から、『男』をやってきた夏樹には女としての危機感がないような気がしたのだ。
今日のように、身体の自由を奪われた状態で連れて行かれて、何かをきっかけに女だということがばれたら、どうなるか…。
勿論、ただ『鍵』としての役目を果たせないことに逆上され、命の危険にさらされるかも知れない。
でも、それが女ならではの最悪のパターンがあるということを、夏樹は知らないのではないか。と、見ていて心配になるのだ。

助けてくれたあの男達が、もっと悪い奴等だったとしたら、眠っている夏樹に悪さすることなど容易い。それこそ、何処か違う所に連れ去られる可能性だって無くはない。
つまり、運が良かっただけなのだ。

(現に、俺は寝ている夏樹の唇を奪おうとしていたし…)

自分のことを棚に上げて言うのも何だが、とにかく無防備過ぎるのだ。
それが、傍で見ていて心配で堪らない。

「夏樹は無防備なんだよ。少しは危機感を持った方が良いよ」

そう言っても、やはりキョトンとしてこちらの意図を探っているような夏樹に。

「俺が言ってる意味が解らないなら、どういうことか教えてあげようか…?」

雅耶は、そう言うと。
ゆっくりと夏樹の傍へと近寄って行った。


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