ツインクロス
そうしている間にも、自分の後方からは別の追手が追い付いて来る。
「…くっ…」
夏樹は後ろ髪を引かれながらも、もう一方の道へと駆け出した。
「道場まで突っ走れっ!!」
背後から雅耶の声が聞こえた。
ただ、ひたすらに前へと足を運ぶ。
とにかく必死だった。
自分を逃がしてくれた雅耶の為にも。
(雅耶。どうか無事でいて…)
祈ることしか出来ない自分。
何て自分は無力なんだろう。
…泣きたくなった。
(自分のせいで雅耶にもしもの事があったら…)
そう思ったら、足が止まってしまいそうだった。
引き返して、雅耶の元へ…。
本気でそう、思った時。
十数メートル前方の角から曲がって来た一台の車が、そのまま前方で停車した。その車からは、即座に数人の男達が降りてくる。
不穏なものを感じて、瞬時に夏樹はその場に足を止めた。
すると、その後部座席からは、ゆっくりと一人の男が降りてくる。
高級そうなスーツを身に纏った、中年の男。
その男は、息を切らして立ち止まっている夏樹を見詰め、微笑みを浮かべた。
「君が冬樹くん、だね。随分とご無沙汰しているね…」
「…っ!…アンタはっ…」
それは、力の父親であり、以前父の大の親友であった男。
他ならぬ神岡、その人だった。
「見違える程大きくなったな。君は野崎よりも聡子さんに良く似ている…」
神岡の口から父と母の名が出てきて、夏樹はその目の前の男を見据えた。
(気安く両親の名を口にするなっ!友人面しやがってっ!)
そう怒鳴りたいのを、すんでのところで我慢する。
挑発するのは簡単だが、まずは相手の出方を待つ方が得策だと思ったのだ。
だが、そうしている間にも後方からの追手がすぐ後ろまで迫って来ていた。
(神岡の周りに三人。後ろに二人…か…)
すっかり挟まれてしまい、どう考えても不利な状況だった。
後方の動きに警戒しながらも、夏樹はその目の前の男に問うた。
「こんな時間に、こんなに沢山の人数を引き連れて…。オレに何の用ですか?」
ある意味、ワザとらしい問いではあるが、目の前にいる黒幕がどう対応するか試したかった。
すると、神岡はそれに平然と答えた。
「君に、私共と一緒に来て欲しいんだ。協力願えないだろうか?」
まるで、この状況が何でもないことのように言ってのけた。
神岡の、そのスカした様子が癇に障って、つい挑発的な言葉が口から出てくる。
「ハッ。よく言う。協力も何も…突然、殴り掛かって来て。最初から選択肢なんかないんじゃないか?」
「…くっ…」
夏樹は後ろ髪を引かれながらも、もう一方の道へと駆け出した。
「道場まで突っ走れっ!!」
背後から雅耶の声が聞こえた。
ただ、ひたすらに前へと足を運ぶ。
とにかく必死だった。
自分を逃がしてくれた雅耶の為にも。
(雅耶。どうか無事でいて…)
祈ることしか出来ない自分。
何て自分は無力なんだろう。
…泣きたくなった。
(自分のせいで雅耶にもしもの事があったら…)
そう思ったら、足が止まってしまいそうだった。
引き返して、雅耶の元へ…。
本気でそう、思った時。
十数メートル前方の角から曲がって来た一台の車が、そのまま前方で停車した。その車からは、即座に数人の男達が降りてくる。
不穏なものを感じて、瞬時に夏樹はその場に足を止めた。
すると、その後部座席からは、ゆっくりと一人の男が降りてくる。
高級そうなスーツを身に纏った、中年の男。
その男は、息を切らして立ち止まっている夏樹を見詰め、微笑みを浮かべた。
「君が冬樹くん、だね。随分とご無沙汰しているね…」
「…っ!…アンタはっ…」
それは、力の父親であり、以前父の大の親友であった男。
他ならぬ神岡、その人だった。
「見違える程大きくなったな。君は野崎よりも聡子さんに良く似ている…」
神岡の口から父と母の名が出てきて、夏樹はその目の前の男を見据えた。
(気安く両親の名を口にするなっ!友人面しやがってっ!)
そう怒鳴りたいのを、すんでのところで我慢する。
挑発するのは簡単だが、まずは相手の出方を待つ方が得策だと思ったのだ。
だが、そうしている間にも後方からの追手がすぐ後ろまで迫って来ていた。
(神岡の周りに三人。後ろに二人…か…)
すっかり挟まれてしまい、どう考えても不利な状況だった。
後方の動きに警戒しながらも、夏樹はその目の前の男に問うた。
「こんな時間に、こんなに沢山の人数を引き連れて…。オレに何の用ですか?」
ある意味、ワザとらしい問いではあるが、目の前にいる黒幕がどう対応するか試したかった。
すると、神岡はそれに平然と答えた。
「君に、私共と一緒に来て欲しいんだ。協力願えないだろうか?」
まるで、この状況が何でもないことのように言ってのけた。
神岡の、そのスカした様子が癇に障って、つい挑発的な言葉が口から出てくる。
「ハッ。よく言う。協力も何も…突然、殴り掛かって来て。最初から選択肢なんかないんじゃないか?」