ツインクロス
その時、後方にいた一人の男が、隙を見て背後から掴み掛って来たので、夏樹はそれを瞬時に避けると、よろめいたその男の背にかかと落としを食らわせた。男は、そのまま道路に倒れ込んでしまう。そこにもう一人の男が殴り掛かってきて、夏樹はそれを掌ではじくと、相手が一瞬(ひる)んだ隙に姿勢を低くして、その足元を思いっきり蹴りで払った。男は後方に勢いよく倒れると、後頭部を思い切り強打して倒れ込んだ。

その、瞬時に二人の男をのしてしまった鮮やかな動きを、神岡は目を細めて眺めていた。
だが、次に冷たい微笑みを浮かべると言った。
「分かっているなら話は早い。下手な抵抗は被害を大きくするだけだよ。そう、例えば…君の友人とか、ね…」

「……っ…」

その言葉に、夏樹は動きを止めると大きく瞳を見開いた。
「向こうにいるのは、組関係の助っ人の方々だからね…。少しばかり乱暴なんだ。君の大事な友人は、今頃大丈夫かな?」

(…雅耶っ…)

「…くっ。…卑怯者め…」
「何とでも。もう、今更引き返せないのだ。私も、君も…ね」

大人しくなった少年を見詰めて、神岡は満足気に微笑むと。
「君さえ大人しくこちらに従えば、向こうの方達は引かせよう。君の友人への手出しもさせないと誓うよ」
そう言って、傍に居た男達に顎で指示を出すと。
男達は夏樹を捕らえるべく、傍へと歩みを進めて来るのだった。




(くそっ、これじゃキリがないっ!)
雅耶は苦戦していた。

雅耶は空手の有段者である。
その為、一般人…と言えるのかどうかは定かではないが、いくら正当防衛とはいえ、決定的な打撃を与えて良いものかどうかを迷い、加減をしながら応戦していた。
相手の攻撃を受け止め、流してはいるが、こちらからの攻撃は思うように打てない。そうなると、必然的にいつまでもしつこい輩を長々と相手にし続けなければならなくなる。
流石に加減をして戦っているとはいえ、数人を相手にしていれば骨が折れるし、何より道場へ向かった夏樹のことが心配だった。
(こうなったら、段位も何も関係ない。皆まとめてさっさとやっつけて夏樹を追い掛けるしかないか)
そう、腹を括った時だった。

「生意気なガキがっ!こうなったらっ…」

そう言って、一人の男が懐から取り出した物は、何とスタンガンだった。
思わぬ凶器の登場に雅耶は驚き、当然のことながら警戒の対象がスタンガン一つに絞られてしまう。

(あんなの食らったらマジ、ヤバイだろっ!)

スタンガンにばかり気を取られてしまっている雅耶を、容赦なく他の攻撃が襲う。
次第に受け止めきれずにダメージを喰らい出し、思わず別の攻撃に反応したその時だった。

「くらえっ!!」
「…っ!!」

(…しまったッ!!)

スタンガンを持った男の腕を避けきれず、瞬間的にその衝撃を覚悟した、その時だった。


バシッ!!


一瞬の内に横から現れた何者かが、その男の腕からスタンガンを叩き落した。

「ぐあっ!!」

男の呻きと同時に、カシャーンという落下音が周囲に鳴り響く。
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