ツインクロス
「…そんな、ことが…?」

想像もしていなかった、その恐ろしい薬の存在に驚きつつも、雅耶の頭の中には幾つか思い当たる節が浮かんだ。
「あ…じゃあ、もしかして…。夏樹をさらった網代組の大倉や立花製薬の社員の男も、もしかして…その薬で…?」
その言葉に冬樹は静かに頷いて見せた。
「あいつらは、秘密を守る為に消されたんだ。拘置所内にも協力者がいるんだよ。今や警察関係者にも手引きしている奴らが沢山いるらしい」
「…腐ってる、な」
「本当にね。それで、その危険な薬の存在に目を付けて、動き出した組織が並木さん達…」
「…えっ?」

運転席の並木に視線を送る冬樹につられるように、雅耶が視線を移すと。
バックミラー越しに並木が、ニッカリと笑顔を見せた。

「そ。俺らは、日本の警察の上にある組織…。そうだな…簡単に言うと、所謂(いわゆる)秘密警察って奴だな」
「ひ…秘密警察っ?そんなものが、日本にも存在するんですかっ?」

驚きの余り身を乗り出している雅耶に、冬樹は微笑んだ。
「…驚きだよね。僕も初め聞いた時ビックリしたんだ」
「まぁ…俺達は、基本的に世間には知られていない存在だからね」
そう言って笑っている並木の顔は、普通に爽やかな好青年という感じで、到底そんな凄い組織の人物とは思えない、親しみの湧くものだった。

(さっき、冬樹が言ってた『最強の助っ人』って、そういう意味だったのか…)
思わず納得してしまう。

「でも、さっき…神岡が追い詰められてるって言ってたよな?…ってことは、もう証拠が揃ってたりするのか?」
「うん。全て揃えた。それで、これから出向こうとしていた所に、神岡達の動きがあって…。向こうも父さんの作った薬の在庫がなくて必死なんだよ。国のお偉いさん達から沢山の受注がある中、急かされて焦ってるんだと思う。だから例のデータが欲しくて堪らないんだ。それで、強行手段に出たんだ」

(それで、夏樹が連れて行かれた…ということか…)
雅耶は、無意識に拳に力を込めた。

「あの子が危険な目に遭うこと位は予想がついていたんだ。連れて行かれてしまったのは、俺達の落ち度だよ。本当にすまない…。でも、あの子が『冬樹』である以上は、あいつらもそうそう手出しは出来ない筈だから…」

運転しながらも、申し訳なさそうに眉を下げる並木や、神妙な面持ちで見つめてくる冬樹に。
「そう、ですよね…。きっと、大丈夫ですよね…」
ただの強がりでも、そう言葉にすることで願うことしか出来なかった。
< 285 / 302 >

この作品をシェア

pagetop