ツインクロス
雅耶は車窓から見える景色に目を向けた。
既に、周囲は高層ビルの立ち並ぶオフィス街に入っている。
横で同じように外を眺めている冬樹に、雅耶は言葉を掛けた。

「なぁ…夏樹に、会ったことってあるのか…?」
「え…?いや…直接はないよ」
「そうなのか?あの、立花製薬での事件で夏樹を助けたのは、冬樹と並木さん…なんだろ?」
「ああ、うん。それはそうだけど…。あの時、なっちゃんは目隠しされてたから僕のことは気付いてない筈なんだ。…あと、一度だけ夜に会った、というか…」
「…夜?」
「うん。ちょっとだけ家に帰ったことがあって、その時偶然なっちゃんが机のとこで眠ってたことがあったんだ。でも、それも眠っていたし知らない筈だよ」
「そっか…」
その時のことを思い出しているのか、冬樹が遠い目をした。

(そんな時があったのか…。知らなかったな…)
今考えると、それも結構危険な行為だと思う。
大倉が自由に出入りしていたということは、あの家の鍵は、今やあってないようなものなのだから。
(…偶然にも入って来たのが、冬樹で良かったとしか言いようがないな…)
雅耶がそんなことを考えていた時、ぽつりと冬樹が呟いた。

「なっちゃんには、合わせる顔がないんだ…。僕は、軽蔑されても仕方ないことをしてるから…」
突然、弱気な表情を見せる冬樹に。
「それはないって。だって、あいつ言ってたぞ。冬樹が近くに居てくれてる気がするって…。自分に都合のいい幻かも知れないけど…って」
「…え…?」
冬樹は、心底驚いたように動きを止めた。
そんな二人の話を前で聞いていた並木が、バックミラー越しに「ああ、そう言えば…」と、思い出したように話に入って来た。
「言い忘れてたけど…あの子、お前のことちゃんと気付いてるぞ?」

「…えっ…?」

「神岡の別荘であの子を助けた時、あの子…声を聞いただけで俺のことを『警備員の…』って言ったんだ。誘拐された時のことを覚えてたんだよ。その後、気を失ってしまったんだが、その時に、お前の名前を呼んだんだよ。『ふゆちゃん』…って」

「う…そ…」

冬樹は信じられないといった様子で、緩く首を振った。

「きっと、大倉から守ってくれたのがお前だって、あの子には分かってたんだよ」
そう、優しく微笑む並木を呆然と見詰めている冬樹に。
雅耶も笑顔を浮かべると言った。
「お前達って、本当に良く似てるよな。夏樹もさ…自分のせいでお前が事故に遭ったって、ずっと自分を責めてたんだよ。お互いに相手のことばかり思い遣っていて…ホント、仲が良いっていうか…。羨ましいよ」

そんな雅耶の言葉に。
冬樹は僅かに目を潤ませると、そっと目を閉じるのだった。


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