ツインクロス
「でも、何だか雅耶は複雑そうだね。…会えて嬉しくなかったの?」
そう、指摘され。雅耶は大きく目を見開いた。
「勿論、嬉しいに決まってるよっ!ずっと会いたいと思ってたんだっ。だから俺、嬉しくて声掛けたんだけど…。でも…あいつは、そうじゃなかったのかもって…」
その雅耶の様子を見て、何かあったことだけは清香にも解った。
「やっぱ、昔とは違うのかな…?」
遠い目をして窓の外に視線を流してしまった雅耶に、清香はフッ…と笑って声を掛けた。
「そっか…。確かに変わってしまった部分は、お互いにあるのかも知れないよね」
そう言うと、雅耶は視線を清香に戻した。
「でも、きっと冬樹くんは色々苦労したんじゃないかな…。家族を失って…環境も変わって…」
「うん…」
「でも、雅耶だって小学生の頃とは流石に違うでしょ?みんな成長していくんだもの。ただ根本的なものはそう変わらない…。きっと冬樹くんもそうだと思うよ」
清香は、諭すように優しく言った。
「また、仲良しになれるといいわね」
そんな清香の言葉に。
雅耶は、少し気持ちが楽になったような気がした。
「うん、そうだね。ありがと…。清香姉…」
「『清香先生』…でしょ?」
すかさず訂正が入って、雅耶は清香と顔を見合わせると。
お互い声を上げて笑った。



明日、また冬樹に話し掛けよう。

まだ、避けられてると決まった訳じゃないし…。
冬樹がいる高校生活は、きっと楽しいものになるに違いない。

そう信じて疑わない、雅耶であった。




一方の冬樹は。

学校からの帰り道。比較的空いた電車のドア横に立ち、揺られながら遠くの空を眺めていた。
「………」

HRの挨拶の後、逃げるように教室を後にした。
本当は、雅耶が何か言いたげなのは分かっていた。
でも、話を出来る余裕が今の自分には無かった…。

雅耶は『冬樹』と『夏樹』にとって、大切な幼馴染であり、大切な友人だ。伯父の家に引き取られてからも、会いたいと…今頃どうしているだろうと思っていたことはあった。だから、本当は雅耶に会えて嬉しかった気持ちもある。

(だけど…)

あまりにも近すぎて。
自分達兄妹にとって『雅耶』という存在は、あまりにも近すぎていたから…。
本当は冬樹がいなくて、夏樹である自分が『冬樹』を演じているということの罪悪感が…どうしても拭えないのだ。

兄の冬樹に対しては勿論のこと…、雅耶に対しても。

これが、本当の冬樹と雅耶であったなら。
生きていたのが、兄の冬樹であったなら…。きっと、八年振りだろうが何年振りだろうが、二人はすぐに昔の関係を取り戻せる筈だ。
仲の良かった『親友の二人』に。

ふゆちゃん、本当にごめんね。
雅耶も、ごめん…。

(オレには…そんな資格は無い…)

これは、罰だ。
冬樹を身代わりに、ひとり助かってしまった夏樹の罰。

(雅耶…。もう、オレなんかに話し掛けるな…。関わらないでくれ…)

掴んだ手すりに力を籠めると、冬樹はドアに寄り掛かり俯いた。


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