ツインクロス
見慣れたお店の前に立つ。

でも、目の前に背の大きな雅耶がいるので、今ならまだ店内から自分の姿は見えていないかも…と、思わず逃げ出したい衝動に駆られる。
そんな逃げ腰で落ち着かない様子の夏樹に気付きながらも、雅耶は微笑みを浮かべると。
「じゃあ、入るよ?」
そう言って、手を繋いだままお店の扉を開けた。
その時、一瞬…。横に『本日貸切』の文字が目に入った。
「あれっ…?雅耶、ちょっと待っ…」
『もしかしたら、今日は貸切でお店に入れないかも』…そう言おうとしたのだが、強引に手を引かれて店に足を踏み入れてしまった。
すると。


パパパパパーーーーーンッ!!


突然、大量のクラッカーが鳴り響き、リボンや紙ふぶきが自分目がけて飛んできた。

「……っ…」

それらを咄嗟に手で庇いながらも、驚きのまま店内へと目を向けると。
目の前には、待ち構えていたように、直純、仁志、長瀬、そして清香が囲むように立っていた。

(え…?な…に…?)

その不思議なメンツに、夏樹が瞳を見開いて固まっていると。
傍に居た雅耶が説明をするように言った。
「夏樹、お前…こないだ誕生日だったろ?少し遅れちゃったけど…お誕生日!おめでとうっ!!」
そう言って、何処からか大きな花束を出すと「これは、みんなから…」と言って、夏樹へと差し出した。
途端…。

「「夏樹ちゃん!おめでとうーーーっ!!」」

そこで、皆が示し合わせたように声を合わせて言った。

「……っ!!」

その、サプライズ的なお祝いに。
夏樹は、思わず感極まって涙ぐんでしまう。

「お帰り、夏樹…。よく来てくれたなっ」
直純先生が、いつもの優しい微笑みで声を掛けてくれる。
「…直純先生…」

そして直純は、少し後ろに立っていた仁志を肘で小突くと、仁志が「…急かすな…」と、文句を言いながらも前へ出て来た。
そんな仁志を前に、
「…仁志さん…。この間、オレ…仁志さんにちゃんと謝れなくて…。本当に、すみませんでしたっ!」
夏樹は堪らなくなって頭を下げると。
「謝る必要はない…。冬樹くんが本当は女の子だったと聞いて、最初は正直驚いたけど…。何より知ってて黙ってた直純には呆れてしまうが、君は君だ…。今までと変わらず店に来てくれると嬉しい」
そう言って仁志は、深々と頭を下げている夏樹の肩をポン…と優しく叩いた。
「…仁志さん…」

否定されても仕方ないと思っていただけに。
その優しい言葉に、耐えきれず涙が頬を伝った。
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