ツインクロス
「うーん、どうなったんだろう?上級生との話は、あまり詳しい情報は入って来なかったから…。でも、特別…喧嘩して大怪我したとか、そういうのは無かった気がするよ」
「ほー…。実は、上級生の不良どもも蹴散らして、後々影の番長とかやっちゃってたりして…」
少々悪ノリ気味の長瀬の言葉に。
「いや、流石にそれは無いと思うよ」
雅耶はとりあえず否定をした。
「うん。野崎くんはそういうタイプじゃないと思うよ」
石原もそれに同意する。
二人に速攻突っ込みを入れられて、長瀬は「あはは…」と、乾いた笑いを浮かべると、
「やだなー、冗談に決まってるじゃないのー」
…と、おちゃらけてウインクをした。

(冬樹は、そんな奴じゃない…)
雅耶は遠く、冬樹の後ろ姿を眺めながら思った。

引っ越した後のことは、わからないけど。
きっと、沢山の変化が冬樹にはあったのだろうとは思うけれど。

『根本的なものはそう変わらない』

清香が言ってくれたように、そうであって欲しいと思う。


そして…。
ピー…という、前半と後半のメンバー交代を知らせる笛の音が鳴り響き。
雅耶達は立ち上がると、グラウンドの中央へと歩みを進めた。




そのまた、数日後。
ある日の昼休み。

冬樹は一人、学食に来ていた。
流石私立とも言うべきか、この学校の学食はとても充実していて、メニューが豊富なのは勿論のこと、安く美味しく栄養バランスの良いものが食べれるとあって、学校のウリの一つにもなっていた。そして、何より男子校ならではのボリュームの多さにも定評があった。流石にそんなボリュームを求めてはいないが、一人暮らしの冬樹にとっては、かなり有難く魅力的な部分でもある。
生徒数が多いこともあり、食堂内はかなり広く造られているのだが、この時間は多くの生徒達で賑わい、それなりの混雑を見せていた。

冬樹はカレーライスをトレーに乗せると、学食専用ICカードで精算を済ませ、空いている席に着いた。混んではいても、一人分の席を探すのに特別困ることはない。
心の中で「いただきます」を言って、軽く手を合わせると冬樹は食事を始める。すると、

「ここ、空いてる?座ってもいいかな?」

突然、頭上から声を掛けられた。
「?…どうぞ…」
…と、顔を上げた瞬間「しまった!」と、思ったが既に遅かった。
椅子を引いて、目の前の席に座ろうとしている人物。
それは…。

(…雅耶…)
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