ツインクロス
再び、ゴツイ男と直立で対峙している状態に戻った時には、後方の二人は痛みに呻き、地に膝と尻餅を付いた状態だった。

「へっ…やってくれるじゃねぇか…」
ゴツイ男が払われた右手をさすりながら笑う。
「生意気だけど気に入ったぜ。お前、俺らの仲間になんねぇか?」
「…断る」
「そうしたら、お前を―…」
「断るって言ってるだろ?オレは、群れにならないと何も出来ない奴らとか大っ嫌いなんだ。寄ってたかって弱い者イジメとか、カツアゲやって悪ぶってるとか…最低な人間のやることだ」
「…何ィ?言わせておけば…っ」

その時。

キーンコーンカーンコーン…
昼休みの終了5分前を知らせる予鈴が鳴り響いた。

(そろそろ戻らないとまずいな…)
自分の教室は、此処からだとかなり距離がある筈だ。面倒だけど、サボる訳にはいかない。
「………」
戻るのが当然のことのように、冬樹は男に背を向けると校舎の方へと足を進めようとした。
「おいっ!待てよっ!!話しはまだ…」
咄嗟にゴツイ男が冬樹の肩を掴むのと、今まで地にひざまずいていた二人が、この場から逃がすまいと冬樹に向かって反応したのは、ほぼ同時だった。
だが、次の瞬間。

「っ!?」

ゴツイ男の身体は宙を舞い。
ドサッ…という音とともに、気付いたら地に仰向けに倒れていた。
「???」
何が起こったか分かっていないゴツイ男と、うっかりそれに巻き込まれそうになり、慌てて避けて固まっている二人を尻目に。冬樹は何事もなかったかのように、校舎に向かってゆっくりと歩き始めた。
「い…一本背負い…?」
一人の男が、驚いたように呟いた。
その言葉に我に返ったゴツイ男が、
「まっ…待ちやがれっ!!」
仰向けから立ち上がり、慌てて冬樹を追おうとするが、その瞬間。
「こらっ!お前達、こんな所で何してるっ?もう予鈴は鳴ってるぞ!!」
教師らしき人物が、体育館の脇から顔を出した。
「やべぇっ、溝呂木(みぞろぎ)だっ」
「チッ…行くぞっ!!」
カツアゲ三人組は、慌てて顔を隠すようにその場から走り去って行った。

「………」
自分を追い越して校舎の方へ戻って行く上級生達を見送りながら、冬樹はいささか神妙な面持ちで歩いていた。前には、先程彼らが『溝呂木』と呼んでいた男性教師がこちらを向いて待ち構えている。
「お前…一年か?クラスと名前は?」
そう聞かれて「ヤバイ…」と思いつつも、教師相手では仕方なく、素直に答える。
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