ツインクロス
それは、この学校の風物詩的なモノになりつつある、ある種のイベント。

「キミが野崎くん!だねっ?」
「あっ!お前っ抜け駆けすんなっ!!」
「野崎くん、陸上部来ないっ?」
「馬鹿!サッカー部だよっ!!」
「………」
冬樹は無表情で固まっていた。

HRが終わると同時に、見る間に上級生が一年生の教室内を満たしていた。それぞれマークされていた一年生達が、勧誘にやって来た上級生達に囲まれている。冬樹も気付いたら、座っている机の周りを数人の上級生達に囲まれていた。
「野崎くん、100メートルのタイム見たよ!!是非陸上部においでよっ!!」
「その足を生かしてサッカー部に!!」
「いや、その身の軽さと跳躍力を生かせるのはバスケ部だと思うよっ!!」
ぎゅうぎゅうと押し合って好き勝手言っている上級生に冬樹はゲンナリした。

(だいたい、何でスポーツテストの個人データが出回ってるんだ…。先生達もグルなのか??)

そう、これは学校側も公認しているイベントなのだ。能力の秀でている生徒を部活に引き込み、学校を更に盛り上げて行く為の。

勝手に盛り上がっている上級生達の壁の隙間から周囲を見ると、涼しい顔をして友人と話している雅耶が見えた。
(何で雅耶の周りには上級生達がいないんだっ?アイツの方が、確かオレよりタイム早かった筈だろ…?)
良く見れば、やはりスポーツ万能な他のクラスメイト達でも、勧誘を受けている者とそうでない者がいることに気が付いた。
(この違いは何なんだろう…?)
周囲を気にしている冬樹をそっちのけで、上級生達は人の周りで勝手に熱くなって、もう一触即発状態だ。だが、それこそ知ったことではない冬樹は、周囲の様子を伺っていた。

「聞いてはいたけど、スゴイ熱気だにゃー。俺…つくづく希望出しといて良かったよん♪」
よく雅耶と一緒にいる長瀬という男が言った。
「お前、結局何部にしたんだ?最後まで迷ってたじゃん?」
「へへ♪新聞部」

(そんな部もあるんだな…。シブいな…)

そう思っていた所に、
「新聞部かー。…シブいな…」
雅耶も同じことを呟いた。
「だって俺、ジャーナリスト志望だもん♪」
「そうだったな…」
「雅耶は空手一筋!だもんなっ」
「うん、高校で空手部ある所少ないし…この学校選んだのもそれが大きいんだよな」

(雅耶…まだ空手続けてたんだな…)

冬樹は遠い目になった。
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