ツインクロス
『この先輩達を相手にして、勝ったら諦めてあげるよ』
そんな一方的な条件を呑む義理はこちらには無いのだけれど。
(そう簡単には、逃してくれそうもない…か…)
冬樹はどうしたらいいか考えていた。普通に柔道の試合などをして、このいかつい集団に勝てる訳がない。それ以前に、ルールさえ知らないのだから。
「言っとくけど、オレ…柔道なんて経験ないですよ」
冬樹が睨みつけながら言うと、溝呂木はわざとらしそうに驚いた表情を見せた。
「そうなの?あんなに綺麗な一本背負い出来ちゃうのに?…でも大丈夫!負けてくれて構わないから♪」
(コノヤロウ…)
そして、嬉々として言葉を続ける。
「そんなの入部すればいくらでも教えてあげるよ。手取り足取り…ね。こちらとしても、お前のような子相手だと教え甲斐があってイイね。本当に楽しみだよ…」
勝手に盛り上がっているその溝呂木の言葉に、異様な危機感を感じて、冬樹はぞわぞわしたものが背筋を這い上がっていくような感覚に襲われた。
「何にしても…もうこれ以上の譲歩はないよ。諦めて入部届を書くか、先輩達と戦うか。…どうする?」
溝呂木はさっきからニヤニヤと笑顔を浮かべているが、対照的に柔道部の上級生達はずっと無言で冬樹を取り囲んでいる。
(なんか陰気そうな部だな…。尚更そんなトコ願い下げだ…)
どのみち、どこの部にも入る気なんか無いけれど。
「絶対入部なんかするもんかっ」
あくまでも強気な態度で冬樹は言い放った。
だが、溝呂木はそれを待っていたかのように満足そうに微笑んだ。
「ふふふ…そうこなくっちゃ。勝負は一本先取だよ。お前ら、気張って行けよ!」
そう言うや否や、手をパンッと叩いた。すると、途端に取り囲んでいた上級生の一人が冬樹に襲い掛かって来る。
「ちょっ!?いきなりっ?」
突然の事で油断した冬樹は、がっしりと制服の左襟元を掴まれて体勢を崩しそうになる。
「ちょっと!!制服がっ!!」
相手は道着を着ているが、こちらは制服だ。右袖までも掴まれそうになって、たまらず払い除ける。その間にも大きな右手が力一杯グイグイと襟元を握り締めてくる。
(くそっ!まだ新しいのにっ)
冬樹はカッとなって、掴まれている相手の右手を中心にくるりと向きを変える要領でそのまま相手の懐に入ると、
「シワになるだろーがーーーっ!!」
そう叫びながら、思いきって背負い投げた。そして、ドサッ…という音と共に、相手の柔道部員は地に仰向けに倒されていた。
空手部の先輩達が群がって見物していたのは、柔道場ではなく何故か外だった。道場棟への二階通路部分の大きな窓から皆乗り出すようにして裏庭を眺めている。
そんな一方的な条件を呑む義理はこちらには無いのだけれど。
(そう簡単には、逃してくれそうもない…か…)
冬樹はどうしたらいいか考えていた。普通に柔道の試合などをして、このいかつい集団に勝てる訳がない。それ以前に、ルールさえ知らないのだから。
「言っとくけど、オレ…柔道なんて経験ないですよ」
冬樹が睨みつけながら言うと、溝呂木はわざとらしそうに驚いた表情を見せた。
「そうなの?あんなに綺麗な一本背負い出来ちゃうのに?…でも大丈夫!負けてくれて構わないから♪」
(コノヤロウ…)
そして、嬉々として言葉を続ける。
「そんなの入部すればいくらでも教えてあげるよ。手取り足取り…ね。こちらとしても、お前のような子相手だと教え甲斐があってイイね。本当に楽しみだよ…」
勝手に盛り上がっているその溝呂木の言葉に、異様な危機感を感じて、冬樹はぞわぞわしたものが背筋を這い上がっていくような感覚に襲われた。
「何にしても…もうこれ以上の譲歩はないよ。諦めて入部届を書くか、先輩達と戦うか。…どうする?」
溝呂木はさっきからニヤニヤと笑顔を浮かべているが、対照的に柔道部の上級生達はずっと無言で冬樹を取り囲んでいる。
(なんか陰気そうな部だな…。尚更そんなトコ願い下げだ…)
どのみち、どこの部にも入る気なんか無いけれど。
「絶対入部なんかするもんかっ」
あくまでも強気な態度で冬樹は言い放った。
だが、溝呂木はそれを待っていたかのように満足そうに微笑んだ。
「ふふふ…そうこなくっちゃ。勝負は一本先取だよ。お前ら、気張って行けよ!」
そう言うや否や、手をパンッと叩いた。すると、途端に取り囲んでいた上級生の一人が冬樹に襲い掛かって来る。
「ちょっ!?いきなりっ?」
突然の事で油断した冬樹は、がっしりと制服の左襟元を掴まれて体勢を崩しそうになる。
「ちょっと!!制服がっ!!」
相手は道着を着ているが、こちらは制服だ。右袖までも掴まれそうになって、たまらず払い除ける。その間にも大きな右手が力一杯グイグイと襟元を握り締めてくる。
(くそっ!まだ新しいのにっ)
冬樹はカッとなって、掴まれている相手の右手を中心にくるりと向きを変える要領でそのまま相手の懐に入ると、
「シワになるだろーがーーーっ!!」
そう叫びながら、思いきって背負い投げた。そして、ドサッ…という音と共に、相手の柔道部員は地に仰向けに倒されていた。
空手部の先輩達が群がって見物していたのは、柔道場ではなく何故か外だった。道場棟への二階通路部分の大きな窓から皆乗り出すようにして裏庭を眺めている。