ツインクロス
「はい?」
その声に立ち止まり、雅耶が振り返ると。
直純は思いのほか真面目な顔をしてそこにいた。
「冬樹のことだけど…」
「…え?」
「お前があいつの、唯一の味方になってやれよ」
「………?」
(唯一の…味方…?…冬樹の…?)
直純の言っているその言葉の意味が解らず、雅耶は次の言葉を待っていた。だが、
「じゃあなっ!今日はありがとな!」
そう言って手を上げて笑顔を見せると、直純は店の中へと入っていってしまった。
(直純先生…?いったい、どういう意味…?)
雅耶は、暫くその場に立ち尽くしていた。
直純は確信していた。
以前、冬樹と夏樹が入れ替わって空手の稽古に来ていたということを。
見た目では違いが判らない、ある意味…完璧な入れ替わりだったと思う。
だが、空手のちょとした『癖』が直純にそれを気付かせた。
稽古の度に、ほぼ交互に微妙に違う『癖』。
最初は冬樹の調子に波があるのかと思った。
でも、別人なのではないか?…と思うようになった。
何となく、『今日は冬樹かな』『今回は夏樹の方かな』程度のほんの些細な違い。
そして、あの事故のあった日。
直純の読みが正しければ、あの日稽古に来ていた『冬樹』は、夏樹の方だったのだ。
「はぁ…」
冬樹は今日、何度目か分からない溜息を付いた。
週が明けて学校に来てみると、柔道部勧誘の件でクラスメイトに朝一から囲まれてしまった。その時の様子や翌日学校を休んだ理由。溝呂木という教師の噂。その他諸々について。興味津々のクラスメイト達には曖昧な返事をして何とかかわしつつも、教室の移動で校内を歩いていても、何処からか感じる好奇の視線。そして食堂に至っては、ゆっくり昼食をとるどころでは無く、流石の冬樹も無表情を貫くことは難しく、げんなりとしていた。
今までは、この学校に面識のある人物は皆無で特に気にしてもいなかった上級生達からも、何だかんだと声を掛けられる始末。悪意は無いものばかりだが、こちらは見知らぬ人ばかりなのに、相手は自分を知っているという違和感。
いつの間に自分の顔はそんなに知れ渡ってしまったのか…それが不思議で、何だか怖いと思った。
そして何よりも。
度々、遠くから物言いたげに見詰めてくる雅耶の視線に。
(流石に…疲れた…)
冬樹は再び小さく溜息を付くと、学校を後にした。
自宅の最寄り駅まで到着し、改札を出て家の方向へと歩き出した冬樹は、ふと足を止める。
(何だ…?)
さっきからずっと、誰かに見られている気がする。
その声に立ち止まり、雅耶が振り返ると。
直純は思いのほか真面目な顔をしてそこにいた。
「冬樹のことだけど…」
「…え?」
「お前があいつの、唯一の味方になってやれよ」
「………?」
(唯一の…味方…?…冬樹の…?)
直純の言っているその言葉の意味が解らず、雅耶は次の言葉を待っていた。だが、
「じゃあなっ!今日はありがとな!」
そう言って手を上げて笑顔を見せると、直純は店の中へと入っていってしまった。
(直純先生…?いったい、どういう意味…?)
雅耶は、暫くその場に立ち尽くしていた。
直純は確信していた。
以前、冬樹と夏樹が入れ替わって空手の稽古に来ていたということを。
見た目では違いが判らない、ある意味…完璧な入れ替わりだったと思う。
だが、空手のちょとした『癖』が直純にそれを気付かせた。
稽古の度に、ほぼ交互に微妙に違う『癖』。
最初は冬樹の調子に波があるのかと思った。
でも、別人なのではないか?…と思うようになった。
何となく、『今日は冬樹かな』『今回は夏樹の方かな』程度のほんの些細な違い。
そして、あの事故のあった日。
直純の読みが正しければ、あの日稽古に来ていた『冬樹』は、夏樹の方だったのだ。
「はぁ…」
冬樹は今日、何度目か分からない溜息を付いた。
週が明けて学校に来てみると、柔道部勧誘の件でクラスメイトに朝一から囲まれてしまった。その時の様子や翌日学校を休んだ理由。溝呂木という教師の噂。その他諸々について。興味津々のクラスメイト達には曖昧な返事をして何とかかわしつつも、教室の移動で校内を歩いていても、何処からか感じる好奇の視線。そして食堂に至っては、ゆっくり昼食をとるどころでは無く、流石の冬樹も無表情を貫くことは難しく、げんなりとしていた。
今までは、この学校に面識のある人物は皆無で特に気にしてもいなかった上級生達からも、何だかんだと声を掛けられる始末。悪意は無いものばかりだが、こちらは見知らぬ人ばかりなのに、相手は自分を知っているという違和感。
いつの間に自分の顔はそんなに知れ渡ってしまったのか…それが不思議で、何だか怖いと思った。
そして何よりも。
度々、遠くから物言いたげに見詰めてくる雅耶の視線に。
(流石に…疲れた…)
冬樹は再び小さく溜息を付くと、学校を後にした。
自宅の最寄り駅まで到着し、改札を出て家の方向へと歩き出した冬樹は、ふと足を止める。
(何だ…?)
さっきからずっと、誰かに見られている気がする。