ツインクロス
西田はモジモジしながらも、横から話し掛けて来た。
「あっあのっ…前はごめんねっ。あ…その…それと、ありがとう…」
必死に言葉を発しているような、そんな男の様子に。
冬樹は足を止めると、西田に向き直って言った。
「それは良いんだ。オレが勝手に見てられなくて首突っ込んだだけだから…。でも、アンタ…西田さん…?アイツらにいつもあんな風に脅されてるのか?何か、弱みでもあるの?」

本当は、これ以上関わりたくない気持ちもあったが、あまりにも目の前の男が不憫で、冬樹は話しを聞いてみることにしたのだった。




(なんで俺、こんなスパイみたいなことやってるんだろ…)

雅耶は木と植え込みの陰に隠れて、冬樹達の会話に耳をそばだてていた。
(はた)から見たらかなり怪しい行動だが、そんな雅耶から見える位置には人は特に見当たらなかったので、とりあえず善しとする。
だが…これで、おおよその事の経緯は理解できた。
雅耶は内心でホッとしていた。長瀬が冗談めかして言うような『ブラックな冬樹』を想像していた訳ではないが、実は今も昔と変わらない優しい心の持ち主だということを知ったから。

それだけが、純粋に嬉しかった。



「もっと嫌だって意思表示しなきゃダメだよ。カツアゲって泥棒と同じだよ。いつまでも、あんな奴らの言いなりになってちゃダメだっ」
真顔ではあるが、冬樹が説得するように若干力を込めて言った。
「でも…やっぱり…。キミは…強いから、…そんなことが言えるんだよ…」
何を言ってもマイナス思考な西田に。
冬樹は「違うよ」…と、小さく呟いた。
「そんなこと…ない…。オレだって…」

その声色にハッとして、雅耶が木枝の隙間から冬樹の方を眺め見ると、少しだけ辛そうに瞳を閉じている冬樹が目に入った。だが、次の瞬間には熱のこもった瞳で、目の前の上級生に語り掛けていた。

「でも、結局は自分自身の気持ちだよ。アンタ…男だろっ。もっと自分に自信持てよ。あんな…群れにならないと何も出来ないような奴らになんか負けちゃダメだっ」
「……っ」
「それでもどうにもならなかったら…。先生達に相談するのも有りだと思う。仕返しが怖くて言う事を聞いてたって、何の解決にもならないよ」
「…う…うんっ」

西田は、冬樹の言葉に勇気付けられていた。
だが、その時。

「随分、余計なことを言ってくれるじゃねぇか」

雅耶が潜んでいる場所と反対側の門側の木陰から、例の三人組が姿を現した。
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