ツインクロス
「おい、おチビちゃん。そいつには何を言っても無駄だぜ?」
三人は余裕の顔で笑い飛ばしている。
「西田ー?俺達を甘く見るんじゃねぇぞー。チクッたりしたらどうなるか…分かってんだろうなァ?」
ゴツイ男が腕を鳴らしながら威嚇(いかく)するように言った。案の定、西田は既にすくみあがってしまっていた。

「いい加減、卑怯な真似はやめろよ。アンタ達だってチクられて困る程度には、悪いことしてる自覚はあるんだろ?」

冬樹は毅然とした態度で言った。だが、三人は下卑た笑いを浮かべて近付いて来る。
「何のこと言ってんだか分からねェなぁ?…なあ西田?俺達はこんなに仲良しなのになぁ?」
そう言って、一人の男が無理やり肩を組むように首元に腕を絡ませ、西田を引き寄せた。
「うっ…ぐ…」
締められて苦しそうな西田の呻きに、冬樹が止めに入ろうとするが、
「おっと!それ以上動くなよっ。動くとコイツの為にならないぜェ」
そう言って、まるで人質だというように西田を盾にしてけん制した。
「………」
「正義感の強いおチビちゃんにはキツイだろ?お前が動いたら西田が苦しい思いをするんだぞ?…分かったら大人しくしてろよ」
そう言われて一瞬動くのを迷った冬樹は、もう一人の男に後ろ手に掴まれ、締め上げられてしまった。
「くっ…下衆がっ…」
そんな呟きも、この状況では相手を喜ばせる言葉でしかない。そんな冬樹の様子に、男達は声を上げて笑った。
「お前、今じゃこの学校で結構な有名人みたいじゃねぇか。生意気な事この上ないなァ」
「だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ」
三人の中で一番腕の立つゴツイ男は、不敵な笑みを浮かべると自由の利かない冬樹の前へと歩み寄り、

「…今までの借り、返してもらうぜっ」

そう言って、思い切り振りかぶった。
その瞬間。
冬樹は後ろ手に締め上げられたまま、弾みを付けて目の前の男のアゴを高く蹴り上げた。

「うぐっ!」

油断していたゴツイ男は蹴りを食らい、後方によろめきはしたが、すぐに体勢を戻して「この野郎…」と、怒りを露わにした。

(やっぱり、手を封じられたままじゃ蹴りの勢いが足りないかっ…)

「ナメた真似しやがってっ」
「くっ…」

仲間を攻撃されたことで、冬樹を締め上げている腕の力も強くなり、冬樹は顔をしかめた。
ゴツイ男は逆上すると、勢いよくパンチを繰り出してくる。

(ダメだっ避けられないっ!)

食らうのを覚悟して目をつぶったその時。
バチンッ!…という音と共に、
「何っ!!」
という、男達の動揺した声が聞こえてきた。

(な…に…?)

来るはずの衝撃がなく、不思議に思った冬樹が恐る恐る目を開けると。
そこには…。

「まさ…や…?」
雅耶が目の前に立ちはだかり、男のパンチを受け止めていた。

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