ツインクロス
男達はすっかり引き気味だったが、それにしっかり釘を刺すことも忘れないでおく。
「このまま手を引いてくれれば問題はないんだけど…もしも、またちょっかい出してきたら、こちらには切り札があります」
雅耶はそう言うと、制服のズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「さっきまでの先輩方の様子を全部動画で記録させて貰ったんで。何かあったらコレを学校側にいつでも提出しますので、覚えておいて下さい」
最後まで穏やかに話す雅耶に。
三人は後ずさりすると、逃げるようにその場を後にした。

バタバタと走り去る上級生達の姿が見えなくなると、そこには静寂が戻って来る。その広い並木道は勿論のこと、校舎にも校庭にも既に他の生徒達の姿はなく、未だ昼過ぎだというのにひっそりと静まり返っていた。

「…ふぅ…」
雅耶は大きく息を吐くと肩の力を抜いた。
今までこういう場面に出くわしたことがなかった雅耶は、自分でも思いのほか緊張していたことに気付く。とはいえ、あんなチンピラに負ける気はしないが。

「雅耶…」

控えめに後ろから声を掛けられ、雅耶は振り返った。
冬樹は申し訳なさそうに視線を落としていたが、ゆっくりと目を合わせると
「助けてくれて…ありがとう…」
と、素直に礼を述べた。
「冬樹…」
「いきなり…お前が現れて、正直びっくりしたけど…。お前が来てくれなかったら、オレは確実にやられてた…から…」
ゆっくりと言葉を探すように語る冬樹に。雅耶は黙ってその言葉に耳を傾けていた。
「ホントに助かったよ…。それに…西田さんのことも…」
後方に立ち尽くしている、西田に視線を移すと。
「これで、きっと…もう平気…だよね?」

二人に確認を取るように冬樹は呟いた。



西田は雅耶と冬樹に対し「ありがとう…本当にありがとう…」と、何度もぺこぺこ頭を下げて帰って行った。
自分達も帰ろうと、二人門へと向かい歩き出す。
すると、両腕をかばうような仕草をしている冬樹に気付き、雅耶が、
「腕…痛むのか?大丈夫か?」
心配になって覗き込んだその時。

「ああ…。へい…き――…」

「……っ!?冬樹っ!?」
ぐらり…とバランスを崩して突然倒れ込む冬樹を、雅耶は慌てて受け止めた。

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