ツインクロス
今度は昇降口を回って入って来たのか、雅耶が廊下側の扉を開けて顔を出した。
「鞄取って来た。…冬樹、どう?」
「よく眠っているわ。とりあえず様子を見るしかないかな…」
清香は、普段通り平静を装ってそう答えた。雅耶は勿論『その事実』を知らないでいるだろうと思ったから。
きっと…何か事情があるのだろう。
それならば、あまり事を大きくしない方が良い。

「心配かも知れないけど、雅耶…あなたは帰った方がいいわ」
「えっ…でも…」
「今はテスト期間中でしょ?明日のテスト勉強もあるだろうし、本当はこの時間、一般生徒は学校に残っていてはいけないことになっているハズよ」
「う…。それは、そうだけど…」

雅耶は冬樹が眠っているベッドの方を気にしながら渋って言った。心底冬樹を心配しているのが見て取れる。
清香は、ふ…と微笑みを浮かべると、雅耶を安心させるように優しく言った。
「冬樹くんのことは大丈夫。もしも歩いて帰るのが困難な場合でも、私が車で責任持って送って行くから心配しないで。だから、雅耶は帰ってしっかり自分の勉強に励むこと!」
ピッ…と、人差し指を立てて清香が言うと、雅耶は笑って頷いた。
「わかったよ。清香姉…」
清香も一緒に笑い合うと「清香『先生』…でしょ?」とのツッコミも忘れなかった。




「…ん……」

うっすらと目を開くと、冬樹は暫くぼんやりと視線を彷徨わせていた。
だが…。
見慣れぬ天井。
僅かに開かれてはいるが、ベッド周りを囲われたカーテン。
そして、微かな消毒薬の匂いに…。

(オレ…眠ってた…?ここは…?)

意識が覚醒してきて、冬樹は慌てて起き上がる。
すると。
「あ…気が付いた?」
突然若い女性の声が聞こえ、ゆっくりとカーテンの向こうから、ツカツカとこちらへ歩み寄る音が近付いて来た。
(だ…れ…?)
そっと傍のカーテンが引かれ、顔を見せたのは白衣を身に纏った見知らぬ女性だった。
一瞬、戸惑いと警戒の色を見せる冬樹に、その女性は笑って説明をした。
「ここは学校の保健室よ。私は、保健医の浅木。よろしくね」
「保健の…先生…?」
呟くような冬樹の言葉に、清香は「そうよ」と微笑んだ。

その優しい微笑みに、冬樹はやっと肩の力を抜いたのだった。

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