ツインクロス
その時、隣の列の下駄箱の陰から同じ部員仲間が顔を出した。
「おーい久賀っ。行くぞー。帰らないのか?」
「あっ。ごめん、先帰ってて」
雅耶は冬樹と帰ろうと思い、そう友人には返答する。
「オッケー。じゃあまた明日なー」
「おう、またな。お疲れー」
皆に声を掛けると、雅耶はその集団を見送った。
皆が遠ざかって行くと、途端に静けさを取り戻したその場所で、雅耶はとりあえず自分も靴を履き替えることにする。
横で空手部の集団が帰って行くのを眺めていた冬樹が、ぽつりと呟いた。
「…別に、オレに合わせなくても大丈夫なのに…」
友人達と帰らなかった雅耶に気を使っているようだった。
「いーの。どうせ皆門の所で別れちゃうんだし。たまには一緒に帰ろうぜ」
雅耶はにっこりと笑顔を向けた。冬樹は最初、何か言いたげな表情を浮かべていたが、
「…まぁ、いいけど…」
そう言って、少し表情を和らげた。
冬樹は、何となく居心地の悪さを感じていた。
まさか、丁度雅耶とこんなところで鉢合せるとは思っていなかったから。
雅耶と一緒にいることに今は苦はないが、清香の所に頻繁に出入りしていると知られれば、それについて雅耶が何らかの質問をぶつけて来るのは、火を見るよりも明らかだった。
駅までの距離を、ゆっくりと並んで歩く。
緩やかな下り坂に差し掛かると、西日が眩しく二人を正面から照らし、後方に二つの長い影を作った。
はじめは、早めに終わった部活の理由等の何気ない話題をぽつぽつと話していたのだが、少し会話が途切れた後、雅耶は何気なく核心に切り込んできた。
「なぁ…冬樹。さっき言ってたカウンセリングだけどさ…。何か悩みとか相談事でもあるのか?」
(やっぱり、来たか…)
冬樹は若干心の準備をしていたので、平静を装って答える。
「ああ…。別に大したことじゃないんだけどな…」
「でも、最近よく保健室とかにも顔出してるみたいだし…。カウンセリングなんてよっぽど何かあるのかと、普通は思うだろ?」
(ちょこちょこ保健室顔出してるのも知ってるのか…)
冬樹は頭の中で、どう言ったら雅耶が納得してくれるかを考えていた。
『秘密』の件以外のことならば、今雅耶に話すことに特に抵抗はない気がした。
冬樹は覚悟を決めると、自分の現在の境遇を明かすことにした。
「オレ…今ひとり暮らしなんだ」
「…えっ?」
流石に予想もしていなかったのか、雅耶は驚いた顔をしてその場に足を止めた。
「おーい久賀っ。行くぞー。帰らないのか?」
「あっ。ごめん、先帰ってて」
雅耶は冬樹と帰ろうと思い、そう友人には返答する。
「オッケー。じゃあまた明日なー」
「おう、またな。お疲れー」
皆に声を掛けると、雅耶はその集団を見送った。
皆が遠ざかって行くと、途端に静けさを取り戻したその場所で、雅耶はとりあえず自分も靴を履き替えることにする。
横で空手部の集団が帰って行くのを眺めていた冬樹が、ぽつりと呟いた。
「…別に、オレに合わせなくても大丈夫なのに…」
友人達と帰らなかった雅耶に気を使っているようだった。
「いーの。どうせ皆門の所で別れちゃうんだし。たまには一緒に帰ろうぜ」
雅耶はにっこりと笑顔を向けた。冬樹は最初、何か言いたげな表情を浮かべていたが、
「…まぁ、いいけど…」
そう言って、少し表情を和らげた。
冬樹は、何となく居心地の悪さを感じていた。
まさか、丁度雅耶とこんなところで鉢合せるとは思っていなかったから。
雅耶と一緒にいることに今は苦はないが、清香の所に頻繁に出入りしていると知られれば、それについて雅耶が何らかの質問をぶつけて来るのは、火を見るよりも明らかだった。
駅までの距離を、ゆっくりと並んで歩く。
緩やかな下り坂に差し掛かると、西日が眩しく二人を正面から照らし、後方に二つの長い影を作った。
はじめは、早めに終わった部活の理由等の何気ない話題をぽつぽつと話していたのだが、少し会話が途切れた後、雅耶は何気なく核心に切り込んできた。
「なぁ…冬樹。さっき言ってたカウンセリングだけどさ…。何か悩みとか相談事でもあるのか?」
(やっぱり、来たか…)
冬樹は若干心の準備をしていたので、平静を装って答える。
「ああ…。別に大したことじゃないんだけどな…」
「でも、最近よく保健室とかにも顔出してるみたいだし…。カウンセリングなんてよっぽど何かあるのかと、普通は思うだろ?」
(ちょこちょこ保健室顔出してるのも知ってるのか…)
冬樹は頭の中で、どう言ったら雅耶が納得してくれるかを考えていた。
『秘密』の件以外のことならば、今雅耶に話すことに特に抵抗はない気がした。
冬樹は覚悟を決めると、自分の現在の境遇を明かすことにした。
「オレ…今ひとり暮らしなんだ」
「…えっ?」
流石に予想もしていなかったのか、雅耶は驚いた顔をしてその場に足を止めた。