ツインクロス
「だから、色々と…さ、相談に乗って貰っていたんだ。清香先生は、食事のこととかも気に掛けてくれてて…。栄養相談とかも…、少し…?」
雅耶があまりにも驚いた顔をして固まってしまっているので、冬樹は語尾に不安さが出てしまった。
(でも、実際…嘘は付いてないし…)

だが、そんな冬樹の心情とは裏腹に、雅耶はショックを隠し切れない様子だった。
「なん…で…?」
「……えっ?」
「お前…あの後、親戚の家に…引き取られて行ったんだろ?何でっ…今になって…お前一人を放り出すんだよっ?それって…あまりにもー…」
雅耶は驚きと怒りが混ざり合ったような、そんな複雑な様子だった。ふるふる…と、握りしめた拳に怒りを込めている雅耶の様子に、冬樹は慌てて訂正をする。
「違うんだ、雅耶。誤解だよ。別に伯父さん達が悪い訳じゃないんだ」
「そんなこと言ったってっ…お前…まだ高校生なのにっ。普通ひとり暮らしなんてさせないだろっ?」
雅耶は、怒りを抑えられない様子で、信じられないという顔をした。
「違うんだっ。オレがっ…。オレが勝手に逃げただけで…」
自分でもよくわからない内に、涙が頬を伝っていた。
「…冬樹…?」

それは、自分への不甲斐なさ故なのか。
自分なんかの為に本気で怒りを見せる、心優しい幼馴染を思っての涙なのか。
正直、分からなかったけれど…。



「ちょっ…何で泣くんだよっ。冬樹っ…」

雅耶が慌てた様子で顔を覗き込んでくる。オロオロして、既に先程の怒りは何処かへ行ってしまったようだ。
一方、冬樹自身にとってもこれは予想外の涙で、冬樹は慌てて涙を拭った。
「ごっ…ごめんっ。ホント…オレ何で泣いてんだろっ。…格好悪ィな…」
高ぶってしまった気持ちを誤魔化すように明るく言ってみたつもりだったが、雅耶は複雑な表情を浮かべていた。
「…ごめんな。俺がお前の気持ちも考えずに強く言ったから…。無神経だったよな。色んな事情があるんだろうし、俺がとやかく言えることなんかじゃないんだよな」
すっかり意気消沈してしまっている雅耶に。
(お前は本当に優しい奴だよな…)
冬樹は小さく笑うと、
「違うよ。お前は何も悪くない。…オレなんかの為に心配して怒ってくれて…サンキュな」
そう言って、冬樹は笑った。


「――――!!」

初めて見せる、照れたような…その冬樹の優しい笑顔に。
雅耶は思わず目を奪われてしまうのだった。

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