ツインクロス
「今じゃ冬樹目当ての客も多い位なんだ。…男女問わず…だったりするんだけどな」
「それって…」
その言葉に直純の方を振り返ると、直純は肩をすくめて見せた。
「でも…」
直純が雅耶の注文したアイスコーヒーをカウンターから出しながら言葉を続けた。
「冬樹が変わったのは、きっとお前の影響もあるんだろうな。さっき二人で話してる様子を見ててそう思ったよ」
「えっ…?」
「お前の側にいる時のあいつは、すごく自然体って感じだもんな。…やっぱり違うよ。何だか昔を思い出した」
そう言って優しく笑った。
「………」

違う。

(…俺は何もしていない)

この店でアルバイトをすることで、直純先生やスタッフの人に、こんな風に優しく見守られていたからこそ、冬樹は少しずつ自分を出していけるようになったんだと、俺には分かった。
そういう場所を冬樹に作ってあげた、直純先生はやっぱりすごいと思う。

(敵わない…)

冬樹が心穏やかなのは、嬉しい。
昔のように、また一緒に過ごせる時間が増えて本当に嬉しいんだ。

なのに、どうしてだろう?
こんなにも心がざわつくのは…。




そして、翌日。

晴れていた昨日とは一転して、今日は朝から雨がしとしと降り続き、すっかり梅雨空へと逆戻りしていた。
雅耶は、昨日からの自分でも訳の解らないモヤモヤを何となく引きずっていた。思いのほか憂鬱な気持ちになるのは、どんよりと広がる雨雲と、じめじめと纏わりつく湿気のせいかも知れなかった。

昼休みに入るとすぐ、冬樹はまた保健室へ用があると言って教室を出て行った。最近は、特に何か用がない限りはクラスの仲間達と一緒に流れで食堂へ向かっていて、その中に冬樹も入っていたのだが、今日は「先に行ってて」…と雅耶に声を掛けて出て行ってしまった。
(今日も保健室…か。…やっぱり相談以外に何かあるのかな?)
気になりながらも、雅耶は皆と食堂に向かった。

皆で一緒に行くと言っても、食堂に着いた後は、わりと皆近場で陣取りながらも各自食事を済ませることにしている。
雅耶は空いているテーブルを見つけると、一人で席に着いた。いつも自然と近くに座る長瀬も、食堂の入口で会った部活の先輩との話が長引いているのか未だ来ない。
そのまま一人で食事を始めて間もない頃、長瀬が意味ありげにニヤニヤしながら隣の席にやってきた。

「雅耶ー、思わぬウワサ話を入手しちゃったよっ。…聞きたい?」
「っていうか、話したくてウズウズしてるくせに…」

雅耶はチラリ…と長瀬を横目で見て、そのまま平然と食事を続けた。
長瀬は笑って「まあね♪」と、言いながら箸を取った。
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