ツインクロス
「冬樹チャン…、こんな風に笑うんだな。俺さー、この写真見た時、超!衝撃だったよ」

長瀬が興奮気味に話している。

雅耶自身も、実は衝撃で言葉が出なかった。


明るく無邪気な…(まぶ)しい程の笑顔に。


だが、ふと…思うことがあった。

「でも、そもそも何でこんな写真があるんだ?これってもしかしなくても隠し撮り…だろ?」

「にゃはは…。それはそれっ!裏取引されてる冬樹チャンのブロマイドに決まってるじゃない♪」

「なにーっ!そんなの出回ってるのかっ?」

マジで怖いだろっ。っていうかマズイだろっ!

だが、長瀬は当然のことのように今度は俺相手に商売っ気を出してきた。

「冬樹チャン、人気あるらしいよ。…っつーワケで。雅耶くん…コレ買わない?一枚百円なり♪」

「なっ…何で俺に売りつけるんだよっ」

「えー。だって俺、雅耶の為にコレ買って来たんだぜー。あ…こんなのもあるよん♪全部で三種類っ」

長瀬は封筒からまた別の冬樹の写真を出してきた。

一枚は、教室の自分の席で頬杖をついて外を眺めている冬樹。

もう一枚は、食堂だろうか。「いただきます」だか「ごちそうさま」をしているのであろう…手を合わせている冬樹の写真だった。

「思いっきり隠し撮りじゃないか…。こんなのいったい誰が撮ってるんだ?」

「えーっ?そりゃー…写真部でしょう。ある意味、新聞部と写真部は密接な関係だからね。これでも特別価格で(ゆず)って貰ったんだよん」

長瀬は得意げに笑った。

「…で?どうする?雅耶…三枚買ってくれる?」

上目遣(うわめづか)いでせがんでくる長瀬に「気持ち悪いからやめろよ…」と、呆れていると、

「えー…買ってくれないの?まぁ、雅耶がいらないんじゃ、他に買ってくれる人探すしかないなぁ…」

…と、怖いことを言い出した。

「おっ…まえ、その写真…他の奴に売るつもりかっ?」

雅耶は焦って詰め寄るが、長瀬は「当たり前でしょ?」と笑って言った。

「こうして、写真が出回ってるってことは、それだけ需要(じゅよう)があるってことなんだよ。トモダチだから、心苦しい部分はあるけどさ…。本人には勿論内緒でいるつもりだし…」

(当たり前だっ)

雅耶はもう一度、目の前にある冬樹の写真に視線を落とした。

「あ…でも、この冬樹チャン可愛いしなー。俺が持ってても良いかもなー?俺はノーマルだけど、眺めてる分には目の保養っつーの?」

くすくす…と笑いながら、長瀬が俺の手から写真を抜き取って言った。

(コイツ!…ワザとらしい…)

そう、思いつつも。

長瀬がこっそり冬樹の写真を持っていて、時々眺めるのを想像するだけで、すごく不快な気分になった。


何でお前が…!

冬樹は、俺の…。


そこまで、考えて自分自身の考えに愕然(がくぜん)とした。


(俺の…?…何だっていうんだ?)

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