ツインクロス
そして、日曜日。

晴れ渡る空の下。
冬樹は、ゆっくりと静かな住宅街を歩いていた。
昨日降った雨が、家々の庭先の葉に雫となってキラキラと光っている。湿度が高くムシムシとしていて、今日も暑くなりそうだ。

(この辺りも随分変わったな…)
記憶を辿りながら、冬樹は直純の家である『中山空手道場』を目指していた。
事の発端は、直純からの誘いだった。
『そうだ、冬樹っ。日曜日、特に予定がないようなら…大会見に来ないか?ウチの道場でやる地元の空手大会なんだけどさ。今回、雅耶も出るんだ』
その話を聞いた時は、正直どうしようか迷っていた冬樹だったが、
『会場は自由に出入り出来るし、散歩がてら覗きに来たらいいじゃないか』
という直純の言葉にそれも良いかと思ったのだった。

懐かしさは勿論ある。
大好きだった空手。
毎回、楽しみだった稽古。
そして…。
(直純先生と出会えた場所だ…)
今みたいに、また先生にお世話になることになるなんて思っていなかったけれど。

そして、雅耶と兄と一緒に通った思い出。
兄と入れ替わって通った稽古。
稽古の後は、色々お互いに教え合ったりして遊びながら帰った。
楽しい、優しい、温かい思い出。

(思い出すと、辛いこともあるけど…)

あの日も、空手の稽古があった。
あの時…兄と入れ替わってさえいなければ…。
何度そう思ったか分からない程、後悔してもしきれない。

でも、現在の道場の様子を見てみたい気がした。
そして何より、雅耶の空手にも興味があった。

(ついでに、後で家の方まで歩いてみるのもいいかも知れないな…)
家の鍵は、こちらに引っ越してくる前に伯父から貰っている。伯父が鍵を保管していたということは、現在の家の管理も伯父がしてくれているのかも知れない。
(だとしたら、流石に中が大荒れってことはないよな…?)
少しだけ別の意味で不安になりながらも、冬樹は家に帰ってみる決心をした。


無事迷わずに道場の前に着くと、賑やかな掛け声や床に響く足音などが聞こえてきた。周囲には試合が終わったのか帰る者や、休憩をしている者など賑やかで、部外者でも門をくぐるのに特に構えず入れる雰囲気だった。
冬樹は懐かしみながら門をくぐると、試合をやっている道場へと足を向けた。

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