ツインクロス
冬樹は一瞬、何が起きたのか分からなかった。

頭がガンガンする…。

痛む背中と後頭部への衝撃で朦朧としているところに、闇の中に潜む相手の腕が伸びて来て、首元を締め上げてきた。
「……くっ!」
反射的に『ヤバイ』…と思いつつも、すぐに反応出来ずにその腕を引き離そうと、もがくだけに終わる。

(くそっ。泥棒か何かかっ?…何でっこんなところに…)

その闇の中の人物は、冬樹の自由を奪う程度の力具合で締め上げながら、低い声で問い掛けてきた。
「…データは何処だ?」
「なっ…に…?」
低い声。声を聞く限りでは、成人男性の声のようだった。
微かに煙草の匂いがする。
「…お前の親父から預かっているデータだ。…何処にある?」

(データ?…仕事の関係者か何かか…?)

「し…知らなっ…」
何のことか分からずに、そう答えると、
「嘘をつくなっ」
男は僅かに声を荒げて、腕に力を込めて来た。
「う…っ…」
その腕を引き剥がそうとするが敵わない。
男の手に爪を立るてようにしても、手袋のようなものがはめられているので大したダメージは与えられない。
「…くっ…」
「…最近になってお前が持ち出したことは全部分かってるんだぜ?以前は見つからなかったこの部屋の隠し扉が開いていたからな。まさか、あんな所に扉が隠されてたとは、流石に驚いたぜ…」
男は、苦しむ冬樹の顔のすぐ真上から見下ろすように話し掛けてくる。男の煙草臭い吐息を目の前に感じて、冬樹は不快感で一杯だった。
それに…。

(隠し扉…?そんなものが、この部屋に?)

男の言っていること、何もかもが分からない。
「そ…んな…のっ…、知らな…」
「強情だなっ。…だが、そろそろこちらも本腰入れて掛からないと、命懸かってるんでな。…殺しはしない。全部吐いてもらうぜ?データの()()をなっ」
「……っ…」

息が出来なくて、苦しくて…。
暗闇で殆ど何も見えないけれど、涙で視界がにじんだ。

(も…う……)

次第に、意識に霞が掛かり始めたその時。


遠くで、ガチャ…という玄関のドアが開く音と共に。
「冬樹ー?」
雅耶が自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
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