ツインクロス
一方の冬樹は…。

自宅アパートへ帰宅後、倒れるようにベッドに突っ伏して横になると、そのまま物思いにふけっていた。様々なことが頭の中で渦巻いている感じで、部屋の暑ささえも気にならなかった。

昼間の出来事が頭から離れない。

あの男が言っていた『データ』とは何なのか。
(男は『お前の親父から預かっているデータ』…と言っていた。お父さんの仕事関係の何か…大事なデータがあるんだろうか…?)

でも、今更だと思った。
何で今になって?
それも、家に忍び込んでまで?
(表立って探すことが出来ない、何か理由があるのかも…)
そうでなければ、あんな…。
命の危機さえ感じる程の…脅しを受ける意味が分からない。
(でも、それを別の誰かが家から持ち出した…?)
暗くて分からなかったけれど、あの部屋には隠し扉があったと男は言っていた。
以前も家に入って探したんだろう、その頃は見つからなかったとも。
(でも…いったい誰が…?)
思い当たる人物などいない。

あの部屋の入口は、いつも鍵が掛かっていた。
(あの事故の後も…。オレが伯父さんの家に行く前までは、確かに閉まっていた筈だ…)
今開いてるのは、以前あの男が忍び込んだ時に開けたのだとしても、隠し扉の場所なんて、父の他に知る者がいるのだろうか…?
もしも、別の誰かが偶然その扉を見つけたのだとしても。
それは…あの男以外の誰かが、同じようにあの家に忍び込んで探していた、…ということになるのだ。

怖い…と思った。
故人の家に忍び込んでまで手に入れたいデータとは、どんな重要な代物(シロモノ)なのだろう。
(それをオレが持ってると勘違いされてる、なんて…。有り得ない…)

『…今日は引くが、逃げられると思うなよ』

男の低く呟く声が、未だ耳に残っている。
(オレを疑っている以上は、またオレの前に現れることもある…ってことだよな…)
だが、自分は相手の声しか知らないのだ。
顔も分からないその人物が、何時・何処で自分を見ているのかも分からないだなんて。

考えれば考える程、それは恐怖でしかなかった。

思い出すように急にズキズキと痛み出した首元に、冬樹はそっと手を添えた。

< 99 / 302 >

この作品をシェア

pagetop