ひとつの村が消えてしまった話をする
8月15日、辿静祭当日、午前11時。

清めが終わった後、飯を食べ終わった俺と葵は、神主一族の屋敷、つまり葵の家で寛いでいた。

葵が小屋に囚われる直前以来、俺は彼女と会話をしていない。

何とも決まりが悪く…俺から話を切り出してみる事にした。

「あのさ、暇だから花札やろう?」

「…いいよ、こいこいね?」

「ああ!」

やっとまともな会話が出来た。

花札をやりながら、昨日の夜、つまり障芽池の森に入った時から、今日の清めが終わるまでの記憶が全く無かった事や、昼食を食べている時から、幽霊の様な存在が見える様になった事を聞いた。

小屋での記憶が無くとも、葵は心身共に傷付けられた事には変わりない。

これを生涯の教訓にすると、葵に、そして滋に誓った。

葵は両親から、滋は家族と共に引っ越したと伝えられていた。

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