ひとつの村が消えてしまった話をする
8月15日、辿静祭当日、午後3時。

神社の神楽殿の前に、神主によって村人全員に召集が掛けられた。

重要な話だそうだ。

俺と葵も神楽殿の前に向かった。

「突然だが、今年の辿静祭を中止する」

神主の言葉は唐突だった。

「ここまで用意をしてくれた皆には感謝するが、昨日から予想外の事が多発している。鬼小屋絡みの件、滋の一族の逃亡の件、森の祠の中の霊石が破壊されていた件だ。森の祠の件についてだが、私は昨日の朝、再封印の為に森の祠に行った。その時は、森の祠の周囲の封印は破られておらず、霊石も破壊されてはいなかった。今日の朝、森の祠に異常が無いか確認しに行くと、封印が破られており、祠の石、初代神主の霊石が破壊されていた。破壊された霊石からは、微塵の霊力も感じ取れなかった事から、霊力を何者かが奪った後、あの霊石を破壊したと考えられる。初代神主の霊石は、この村のあらゆる封印を支える力であり、封印の維持が不可能になった今、全ての封印は崩れ、封印されている存在が溢れ出し、この村には災厄が訪れる」

当然の如く村人は慌て始めた。

森の祠の霊石を破壊した犯人、村人は大声で言わないだけで、滋の一族の仕業だと気付いていた。

「今より、この村での全ての禁を廃止する。我々一族は、この村を脱出する事を決断した。今夜にもこの村を出ていく。以上だ」

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