ひとつの村が消えてしまった話をする
神主に俺が直接聞いた事によれば、初代神主が残した、自分の霊力を封じ込めた霊石の力は、本当の所は初代神主が死ぬ直前の年まで効力を発揮したが、死後、直ぐに効力は無くなってしまったらしい。

そこで初代神主の子孫達は、辿静祭に関する禁を作り、その禁を恐れ、守ろうとする村人の念を、何らかの方法で石に集める事で霊石と化し、その霊力を核として村のあらゆる封印や結界を保っていたそうだ。

その霊石が破壊され、霊力が奪われた今、村に施された何百という封印や結界が徐々に崩壊しているらしく、全てが完全に崩壊するのは5日後の8月20日。

完全に崩壊した時、村に留まり続けてきた災厄が訪れると。

正直、この伝承のどこが真実なのか、未だに隠されている事があるように思ってならない。

神主は祠の封印が破られた件に関して、自分自身でも疑問があるらしい。

その疑問を纏めると、まず祠の封印を破った者は、痕跡からして1人だそうだ。

滋の一族は祠の場所を知っている事は確かだったし、霊石の破壊されていた周囲には多くの靴跡が残っていた為、霊石を破壊したのは滋の一族で間違いない。

だが、祠の周囲に施された封印を解くには、例え祠の場所が分かっていたとして、そこに行ったとしても、『近づいた者の生気を欠く封印』の前では無力になり、どうしても祠に近寄る事は出来ない。

代々の神主は、この封印が弱まった所を修復しに行く為、弱まっている封印の前である方法を使う事によって、何とか再封印が可能となる。

霊石が破壊されたのは、神主が再封印をした直後なので、弱まるも何も万全な状態だ。

要約すると、人には祠の封印は破れないが、人外の存在ならば封印を破り、滋の一族を祠の中へ通す事が出来る。

俺は胸騒ぎを感じていた。

何か忘れてはいないかと。

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