ひとつの村が消えてしまった話をする
で、1匹釣ったところで、俺が『鯉に洗剤掛けたらどうなるか実験しようぜ』というアホな実験を提案した。

俺の提案に大体悪乗りしてた弟も賛成し、実験の結果、当然鯉は死んでしまった。

死んだ鯉を見て子供心にも多少罪悪感はあったけど、『ほっときゃ猫が食べるだろ』と思いそのまま放置して帰る事にした。

けどここで弟が『兄ちゃん、猫が鯉食うとこ見ようぜ』というこれまたアホな提案をした。

まあ俺も動物番組でライオンがシマウマを襲うシーンをカッコいいとか思ってたので、生で見るのも悪い気はせず、近くの茂みに隠れて様子を伺う事にした。

しばらく潜んでると、森の奥側(畑と反対側)にある一番でかい木がガサガサと木の葉を揺らしだした。

当時俺は猫の生態を知らなかったので、ああ猫は木の上に住んでるんだなーと思いながらぼんやり見てた。

突然、隣にいた弟が『…猿』と呟いた。

俺は『?』と思いその木の上の方を見上げると、確かに何かいた。

猫にしてはでかい。

今思い返すと、その獣は夏であるにもかかわらず、やけに毛深かった。

その獣が、樹上から地上に向かって木の幹にへばりつくような感じで、『頭を下にして』降りてくる。

どことなく爬虫類を思い出させるような、嫌な感じの動きだった。

その『なんだかよくわからないもの』は、ゆっくりと池に向かって歩いてきた。

俺はいつの間にか体が震えている事に気付いた。

隣を見ると、弟も顔を真っ青にして体を震わせている。

その生き物が近づいてくるにつれて、何か人の声のようなものが聞こえてきた。

耳を凝らすと、その『けもの』が何か呟いている。

「……………もの……………もの………………もの………………」

なんだ。

何を言ってるんだ。

俺は当初の目的を忘れ、ここから逃げ出したくてたまらなくなった。

弟が一緒じゃなかったら、漏らしていたかもしれない。

そのくらい怖かった。

やがてその『けもの』が近づいてきた時に、顔と呟きがはっきりと判った。

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