私たち暴走族と名乗ってもいいですか?(下)

「ん?秋奈?」

 ノンタンの顔にそっと手を伸ばして頬骨のあたりにある青痣に触れる。

 少し顔をしかめたノンタンだけど、気丈に笑う。

「俺は大丈夫。秋奈も早く復帰しろよ」

「紀仁だけじゃなくて、みんな大丈夫だっての」

 みんなって、やっぱり他の子も怪我したの?

 それに、ノンタンも大貴も私が怪我したことは知ってる。

 なんで、志季のメンバーみんなが怪我したの?なんで、夏は…。

「…秋奈?どうした?だんまりで」

「もしかして夏樹か?…あいつは、もう…」

 大貴は知ってるの?夏がいなくなった理由…。

「『教えて!何があったのか!!夏はどこにいるの!?』」

「え?秋奈、口パクじゃわかんねぇって!」

 大貴の服を掴んで、詰め寄った。

 …つもりだった。でも、口から漏れるのは息だけで、何の音も出してくれない。

 やっぱり伝わらない。声が出なきゃ、伝わらないんだ。

 熱いものが何とか出てこないように抑えて、それでも悔しくて唇をかむ。

 声が出れば、記憶が消えたりしなかったら、夏を探しに行けるのに。

 こんなにつらい思いなんかしなくてもいいのに…。
< 145 / 341 >

この作品をシェア

pagetop