私たち暴走族と名乗ってもいいですか?(下)

「辛いんなら、やってみれば?」

 肩に手を回され、それを持った手は、俺の目の前にある。

「大丈夫。夏樹は強いから、こいつみたいにならないよ」

 心臓が嫌な音を立てる。

 でも、体は動かない。何かで縛られたかのように、誘惑されるようにそれから目を離せない。

 手が、それに伸びる。

『夏樹!』

 手が、止まる。

 俺、何しようと…。

 急に怖くなってリツキの腕を振り払う。

 床に落ちたそれを踏み潰して駆け出した。

 逃げろ。ここから…、この場所から。

 訳も分からず駆け出した。

 行き先なんかわからなくて、ただあの場所から逃げるために走り続けた。

 走って、走って、走って、俺は紫炎から逃げ出した。
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