私たち暴走族と名乗ってもいいですか?(下)

「…俺、ここに来れてよかった」

 夏樹は勝手にしゃべりだす。

 別に私に聞かせようとしてるわけじゃない。だから返事もしないし、黙った。

「まさか、学校が面白いなんて思わなかったし、手作りの飯があんなうまいなんて思ってなかった。友達を初めて知ったし。…あそこには戻りたくねぇけど、ケリは付けねぇと…。秋奈と瞬桜に顔向けできねぇし」

 夏樹の悲惨な幼少期が嫌でも頭に浮かぶ。

 だから、夏樹をここまで引っ張り上げた秋奈と瞬桜がすごいと思う。

 何も知らないのに、夏樹を変えた2人がすごい。

 でも、何も知らないからこそ、夏樹はここにいなきゃダメなんだ。

「…戻ってきなさいよ。秋奈泣かせんな!!」

「…分かってる。俺も、秋奈に泣かれたら困る」

 また苦笑を浮かべた夏樹は、背を向けた。

「3日後、行ってくる。…秋奈、頼むわ」

「…分かった」

 何も言わずに路地裏から出て行った夏樹。

 その背はいつものふざけた感じはなくて、調子が狂う。
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