私たち暴走族と名乗ってもいいですか?(下)
春馬が声をかけ始めた直後、握っていた手に不自然な力が入る。
顔を見れば、今まで動かなかった表情がかすかに歪む。
「秋!おい、秋?」
握った手に力を込め、秋の左の頬を軽く叩く。
春馬はその間も呼びかけを続けていて、六花は突然のことに驚いていたけど、すぐに傍に来て名前を呼ぶ。
「秋、秋?」
「……………っ」
1度、まぶたが震えた後、ゆっくりと閉じられていた瞼が上がる。
ゆらゆら揺れる瞳が俺や春馬の姿を見て、何度か瞬きした。
「分かるか?秋」
「姉ちゃん!」
「………」
しばらくじっと見られて、口がかすかに動く。
しゅん?はるちゃん?
声は出なかったけど、口は確かにそう紡ぐ。
手を握ると、弱々しい力で握り返される。
「…ッ俺、先生呼んできます!!」
泣きそうになった目を隠して春馬が病室を飛び出していく。
ドタバタいう春馬に驚いたのか目をぱちくりさせた秋は、俺を見てふわっと笑う。
おかしいねとでも言いたそうな顔に苦笑する。
3日も目覚まさなかったのに、慌てないわけあるか。額を突くと何するんだと言いたげな目をする。
よかった。秋だ…。心の底からほっとした感覚が全身を包んで、笑いかけた。