私たち暴走族と名乗ってもいいですか?(下)
病室を出て1階にある売店に向かいながら春馬の様子を見る。
目が覚めて、特に大きな障害もなく元気な様子の秋奈が個室を使い続けてるのは何となく違和感がある。
てっきり大部屋に移っていると思ったのに。
春馬はやけに元気にふるまうし、なんか変だ…。
「瞬桜さん、何がいいですか?」
「春馬、秋なんで喋らないんだ」
春馬の言葉を無視して問うと、春馬は急に笑顔を失くす。
「…それ聞くためについて来たんですか?」
苦笑を浮かべながらも、秋奈のリクエストらしいチョコに手を伸ばす。
「姉ちゃん、怪我のこと覚えてないんですよ」
「え?」
「瞬桜さんと夏樹さんが配達に行って、たまり場に戻るまでは覚えているらしいんですけど、それからのことは何も。…喋らないのは、失声症じゃないかって言ってました」
「失声症?」
「はい。なんかストレスで声が出なくなるらしくて、もしかしたらその怪我をしたことを忘れたことも関係してるんじゃないかって」
「…治るのか?」
「…今は、姉ちゃんを安心させるのが第一だって。これからカウンセリングもするみたいですけど、姉ちゃん嫌がってて」
秋奈の好きなあめも手に取った春馬は悲しそうな顔で無理に笑う。