花の目






 夕方、いつものように近所の花屋に一人で歩いていく。花屋に着くと、いつも優しい笑顔でむかえてくれる花屋のおじさんが、どこかさびしそうな笑顔で私をむかえた。

「いらっしゃい」

 いつもと同じ言葉。でもその声もやっぱりどこかさびしそうな声だった。

「いらっしゃいました」

 私もいつもと同じ言葉でかえす。

「どんな花をくれるの?」

 おじさんはおこづかいをもらえない私に、毎日一輪の花をタダでくれる。こう言うといつもは笑って花を渡してくれるのだが、今日はちがっていた。

「ごめんね、お嬢ちゃん。今日でこの店閉めることになったんだ」

 おじさんは私の頭を優しくなでながら言った。後から考えればすごく単純なことなのに、その時の私の頭にその言葉はすんなりとは入ってこなかった。

「どういうこと? もうお花をくれないの?」

 おじさんの膝にすがりつく。

「沢山あげるよ。片手では持ちきれないような、大きな花束を」

「本当!?」
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